隣人

その他主人公

※下品な表現が含まれます

 

 ああ、隣の家のことですか。
 知っていますよ。誰が住んでるんだかは知りませんがね。越してきたのは確か去年の冬だったと思いますよ。
 引越しに家主は居なかったんじゃないかと思いますね。荷台に乗った少ない家具を、運び入れる大柄の男が二人くらい。
 多分ですけど、普段は住んでないですよ。実際、気配感じるのは週末くらいですからね。たまに平日の夜遅くかな。まあその気配ってのが、問題なわけで。
 ああ、そうそう。越してきた後、一応挨拶に来たんでした。背は高かったけど、痩せ型の男だったと思いますよ。ただ、夜だったし、頭巾を被っていたもんだから顔はあんまり見えなくてね。結構な良い菓子折りを置いていきましたよ。
 物腰は柔らかかったですよ。ただ、家主と実際に会ったのはそれきり。
 週末になると、この家に居るみたいですね。普段はどこか、他に家があるんだか――ああ、もしかしたら世帯を持っている男なのかもしれないね。
 ああ、なんで週末に居るのが分かるかって話でしたね。気配って、言っただだろう。まあつまるところその気配って、そんな難しいもんじゃあなくて、あれですよ。
 あれっていうのはつまり、男女のそれです。その声がよおく聞こえてくるわけですよ、週末になると。ああ、でも偶に平日の夜もあるかな。
 ほら、こうして見てくれりゃ分かるだろうけど、庭が隣接しているんですよ。ここはあんまり大きな区画でもないし、あっちの声量によっちゃ耳をそばだてたら会話の内容まで危うく聞こえちまいそうなほどですよ。流石に聞こえませんけどね。
 多分だが、人目のつく場所で会える関係じゃあないんでしょう。だから週末になればこの家に来て、気が済むまでまでその女を抱く訳ですよ。
 ええ、毎回同じ女ですよ。声でわかる。
 だから、週末になると困ってね。まあずっとって訳じゃないですよ。ただ、昼でも関係なくおっぱじめることもあるもんだから、私は耳のやり場に困っちまうんですよ。
 私は一人もんで、平日は裕福なお屋敷の庭の手入れなんかをやっているもんで、週末なんか一人で家で寝ていたいんですよ。だってのに、女の嬌声が聞こえてくるんじゃあたまったもんじゃない。
 またね、それがうるさいって訳じゃないのが困ったところなんですよ。ほら、あなたも花街に行ったことくらいあるでしょう。花街の女は大げさに善がってくれるもんですが、隣の家に連れ込まれてる女は、ああいう善がり方じゃあないんですよ。
 例えるなら、まあそうだな、耳かきだな。耳かきすると、自然とため息がでることがありませんかね。気持ちが良いところを上手くこすれると、自然と声が漏れるでしょう。そういう声を、漏らすんですよあの女は。
 どんな女かって、気になってしまいましてね。一度女が来るのを張ったことがありました。ただ随分用心深くてね、男と同じように深く頭巾を被っていましたよ。ただ分かったのは華奢な女だったってことです。
 まあ一つ言えるのは、元気な男女だってことですよ。週末二日間で、何回ヤッてんだか一度数えたことがありましたよ。合わせて六回ですよ。しかも一度がそう短いわけじゃない。だらだら、だらだらと。睦言でも交わしながらなんでしょうけどね。
 薬でも飲んでんじゃあないかって見立てですよ。じゃなけりゃ、普通の男は涸れるでしょう。まあ護廷の席官様とかなら分かりますがね。ああいう死神さんたちは霊力の強さが精力だとか聞きますから。でもまあ一度会った印象で、そんな若い男にも見えませんでしたからね。ただそれだけさせる女ってのに、私は興味がありますよ。
 え?覗きやしませんよ。真っ当な倫理観は持ち合わせてますからね。ただ、一度庭でやられたときは流石に覗いてやろうかと思いましたけどね。
 文句?別に言いやしませんよ。なんでって、まあ。良い千摺りのネタにはさせてもらってますから。ああ、これは誰にも言わないでくださいよ。つい漏らしちまいましたが。
 覗いてるんじゃないかって?それは誓って一度も無いですよ。覗かないほうが良いんですよ。目に見えない分、想像を膨らませられますからね。
 ああそうだ、あなた瀞霊廷通信、先月号読みましたかい。そうそう、女性副官特集だった。私の同僚には松本副隊長だとか、虎徹副隊長みたいな豊満な女性が人気でね。それも分かるんだが、私は日南田副隊長が一番好みですよ。
 へえ、あなたは涅副隊長かい。それも分かるが……私はお恥ずかしながら、日南田副隊長みたいな誠実な女が乱れる姿を見たいクチでしてね。ああ、そう。分かりますか。
 で、何だったかな。ああ、そうだ。俺はその隣人の女の善がり声を聞きながら、お恥ずかしながら、日南田副隊長を重ねてるって訳です。実際お目にかかったことはないですがね、俺の想像上の日南田副隊長の声にぴったりと当てはまるんですよ。
 変わった性癖ってのは自覚してますよ。いや、昔からって訳じゃありませんよ。隣のせいにきまってるでしょうよ。毎週末、日がな一日聞かされてご覧なさいよ。
 あの恥じらいながら、勝手に漏れる声っていうんですかね。合間で何か睦言を交わしてるんですが、そこまでは流石に聞き取れない。何か男から煽られているんでしょうね。一段と声に熱がこもる瞬間が、私は堪らなく興奮しますよ。
 ああ日南田隊長の噂?男が居るって噂ですか。ああ、まあ知ってますが、相手は浮竹隊長ってそんな筈は無いでしょう。浮竹隊長っていったら、日南田副隊長の年齢の倍はあるはずですよ。彼からしたら、子どもみたいなものでしょう。
 そんな部下に手を出すような、節操ない方には見えませんけどね。ああ、はい。浮竹隊長には一度お目にかかったことがありまして。
 少し前になりますが、浮竹隊長のご自宅のお庭を手入れさせてもらった事がありましてね。普段手入れをしている庭師の都合が悪かったとかで、偶々。
 まあ噂通り人の良いお方でした。そんなに言葉を交わした訳じゃないですけどね。有難くもお屋敷で茶を馳走になりましたが、全く生活感のない御屋敷でした。人の気配も物も全くなくてね。
 殆ど隊の方で過ごされているようで。隊長というお立場から一応、ご自宅として持たれているようですがね。庭の手入れくらいしかされないらしいです。
 あの辺はここら辺と違って、一つの区画が大きいでしょう。随分良いお庭でしたよ。こんな狭苦しい家とは違いますよ、ええ。趣味は盆栽と仰っていて、隊舎の方には置かれているみたいでしたね。
 そういや、隣の家も引っ越しの時の荷台に盆栽がありましたね。黒松だったかな、随分立派だったんで覚えてますよ。荷物も殆どなかったですしね。
 まあ、隣人についてはそんなところで良いですかね。――で、大体、こんな事聞いてどうするんです。記者ってわけでもないんでしょう。もしかしてあんた、隣の知り合いかい?
 へえ、やっぱりそうかい。それは参ったね。
 ああ、いやね。隣人から一つ、言われてることがありましてね。
 知り合いと名乗る者から何か探られたら、保護するように言われてるんです。だから少しここでお待ちいただくことになるんですけどね。すいませんね。
 ああ、無理ですよ。隣人は鬼道とか縛道がお得意みたいなんでね、ここからは出れやしないし、多分霊力ってのも今は使えなくなってるんじゃないですか。
 話と違うって、当たり前じゃないですか。こんな面白い話、誰にも話せやしないからあんたみたいな人にしか話せないんですよ。こうして偶に隣人を探りに来る、あんたみたいな無礼な方に話して、反応を楽しんで満足してるんですよ。
 え?引き渡されたらどうなるのかって、知りませんよ。私は、隣人を嗅ぎ回る無礼な死神を保護するように言われてるだけですから。
 まあ、隣人は私の与太話が広まらないように、してくれてるみたいですけどね。顔を見たことはないですが、本当に人の良いお方ですよ。

2025/04/17