保護中: ここは呼吸をするところ

ここは呼吸をするところ その夜はいつも以上に丁寧だった。口付けは唇がぴりぴりと痺れて、力が入らなくなるくらいに繰り返された。舌の柔らかく艶めかしい肉感が忘れられなくなるくらい、丁寧にしつこく何度も絡まってどろどろに溶かされるかと思ったほどだ。 息が足らなくて頭がぼうっとして、ただ気持ちが良くてぐったりしていれば、胸元の合わせをゆっくり開かれ顕になった胸元へと彼の唇は移動した。その時点で少し予感がしていた。首筋を甘噛して舌を這わせながら乳頭へと辿り着き、舌先を固くして丁寧に刺激を与える。 片方は手のひらで優しく揉みしだきながら、指の腹で乳頭を刺激し、やがてぷっくりと立ち上がった部分をくりくりと転がした。舌の生ぬるくねっとりと纏わりつくような優しい心地も堪らなかったが、乳房を揉まれながら指先で乳頭を弾かれ摘まれる多少粗雑な扱いも嫌いではなかった。 赤子のように吸い付かれ甘噛され、それが何度も繰り返されるうちに弾けるような心地よさで身体がびくびくと震え、腹の奥がぎゅうと熱くなる。満足気に微笑む浮竹の表情を、涙を滲ませて見上げていれば、次は左の胸へと唇を落とされまた同じように軽く達するまで丁寧に繰り返された。 まだ下半身には指一本として触れられていなかったというのに、どのような状態かというのは自分でも分かった。口付けの時点で既に恥ずかしいくらいに下着を濡らしていた自覚があったというのに、その後まさか達するまで胸元を嬲り倒されるとは思わなかった。 二度も達して息切れしながら、彼がようやく顔を上げた胸元を見下ろせば恥ずかしいくらいに乳頭は赤く腫れ上がって、まるでまだ誘うようにぬらりと唾液が反射する様子が我ながらいやらしい身体だと評したくなる。 満を持してとでも言うように、浮竹は下着に手をかけるとゆっくりと下ろしていく。自ら腰を上げ、つま先を上げて彼が下着を取りやすいように勝手に身体が動くさまは、この後の期待の現れだろう。 立てた膝をゆっくりと左右に開き、彼がその中心へ触れやすいようにと誘導する。熱くなった身体を早く冷ましてほしくて、大きく股を開いて見せればその大きな手のひらは腿をするりと撫でた。膝の間に彼の身体が来て、両手が優しく腿を何度も撫で、その中心へと近づこうとする。 際を撫で、もうすぐその中心に触れそうなくらい近づくのに中々肝心な場所には触れてくれず、もどかしくて息が上がった。触って、と言えたならどれだけ楽なのだろうかと、目線は彼の手元へと吸い寄せられる。 腿と腰、腹をゆっくりと撫で、手のひらとの単なる摩擦ですら性感を刺激して、腰が勝手にぴくりと震える。彼は優しく微笑んで、かわいいね、と呟いた。可愛くなんて無い、早く奥まで触って欲しいと、そればかりを考えているはしたない身体だというのに。 普段も彼は丁寧に身体を触れてくれるが、今夜は特別だった。結婚の意思を互いに固めた後の、初めての夜だからだろうか。理由は彼のみぞ知るが、だとするならば納得ができるのだった。 浮竹は普段のさっぱりとした様子に反して、存外恋人に対しての執着が深いことはここ最近ようやく理解したことだった。嫉妬などするような性格では無いだろうと、普段の様子から思っていたが、そういうわけではないようだった。 彼がそうして存外、人並みの薄暗い感情を持ち合わせている事を知れたのは、恋人の特権であったと思う。決して表には出さない感情をにだけは見せてくれた。今夜の姿もきっとその一つだった。 ようやく、指先が陰唇を撫でる。漏れ出す蜜を掬って塗り込めるように、二本の指をぬるりぬるりと往復させた。ゆっくりと滑らせながら陰核を剥き、赤く充血したそこをにゅくにゅくと蜜をまとわせ捏ねる。電撃が走るような快感に身体を震わせていれば、中へぬるりと入り込んだ指が満ちた蜜を掻き出すように出入りする。 陰核への刺激と、膣壁を圧迫する快感に息ができず、背を弓なりにして腿を震わせる。苦しげに何度も絶頂を伝えるが、彼は大丈夫と優しく繰り返しながら止めようとはしない。色々なものが溢れ漏れ出すような感覚に、訳が分からず滲んだ涙がぽろぽろとこぼれた。 繰り返される快感に、脳が麻痺するのではないかと恐怖さえ感じたほどだ。緩急をつけながらぐじゅぐじゅとかき混ぜ続ける指先の刺激に、何度達したか分からない。ようやく止まった彼が抜き出した指から滴る水分に、はただ荒く息を繰り返すしか無かった。 既に疲れ果ててまともに動けないまま、彼がゆっくりと帯を解く様子を呆然と眺める。寝間着の前を開き、不自然に盛り上がった下着を下ろせばその穏やかな表情とは真逆の、固く熱り立った雄が姿を表す。いつもと変わらぬはずだというのに、今日は普段以上にそれが禍々しく思え、そして同時に期待に気が逸った。 これだけ丁寧にほぐされた今夜、挿入の後一体どうなってしまうのかと期待半分、恐怖も半分であった。血管の浮き出るほど固く太く勃起した雄を、浮竹は何度か扱くとの蜜口へその突端を向ける。くちゅり、と口づけするように優しく触れると馴染ませるように擦り付け、徐々に埋めていく。 その生の熱が分かる。いつもこの瞬間は神秘的だと思っていた。その為に存在する部分を神が望んだ通りに正しく重ね合わせていく。だが、その正しいはずの行為がおかしくなるほど気持ちが良いから、本来は生殖の為の行為だというのに、こうして好き合う者同士が快感を与え合いながら愛情を確かめ合う合理的な行為になっている。 きっとこのまま時が進み、互いに望んだ時、やがては本来の目的に向けてこの行為を繰り返すことになるのだろう。 亀頭が蜜口へ埋まり、ゆっくりとこじ開けていく。ぎゅうと閉じていたはずの入り口は彼の形に合わせて徐々に口を広げ、太い陰茎をゆっくりと飲み込んでいく。待ち望んだ圧迫感に震えながら、ふと目線を上げれば、浮竹はまっすぐにの顔を見下ろしていた。 突き刺さるような視線に、嫌、と思わず顔を逸らすと、彼の手が頬に触れ正面へと戻される。途端にぐ、と奥まで入り込んだ感覚に、は息を呑んだ。彼は嬉しそうに目を細めてゆるりと腰を引き、再び奥まで穿つ。顔を固定され、見せたくもない一喜一憂を彼に見せつけながら羞恥と快感で気がおかしくなりそうだった。 かわいいな、と吐息混じりに呟いた浮竹は、深い場所を何度もこじ開けるように打ち付ける。熟れた果実を潰すような音を立てる抽送のあまりの重さに、潰れるのではないかと思った。ごりごりと、彼でしか触れられない場所をしつこく刺激される。 背に手を回され、身体を抱き起こされるとそのまま彼の膝の上に載せられた。強要もされていないというのに、彼の身体にしがみつきながら自ら腰を上下させ反応する。気持ちが良い部分は自分が何より分かっているから、その場所を何度も擦り付け求める。 普段は彼に任せてばかりであまり積極的に動くことは少なかったというのに、今夜あれほど丁寧に隅々までほぐされてしまったからきっとおかしくなったのだ。どくどくと心臓が絶え間なく早鐘を打ち、息も荒く頭もあまりまともに働いていないというのに、快感に貪欲になった身体が勝手に腰を揺らす。 好き、好きと何度も口走りながら、その度に深くなるような抽送に恍惚した。身も心も彼のものになってしまったのだと、蕩ける頭で考えていた。 だが思い返してみれば、彼と過ごす夜はいつもおかしくなりそうなほど気持ちが良かった。前よりも気持ちが良いと彼に揺さぶられながら喘いでいたが、しかしその前も、そしてその前も同じように、前よりすごいと身悶えし喘いでいた。 いつも彼は同じくらい優しく丁寧に、隅々まで触れてくれているはずだ。今奥で擦られている部分だって、前の夜もその前の夜も同じくらいしつこく擦られていたはずだ。いつもやめてと涙目になるから覚えている。だからつまり、受け止めるの身体が、夜を重ねる毎にきっと敏感で淫らになっている。 今夜だって普段以上に優しくて丁寧だと感じていたが、きっと彼からしてみれば毎回同じくらいに丁寧にしてくれているのだろう。結婚をあまりに強く意識しすぎて、身体が勝手に甘く蕩けさせているのはであった。 熱に浮かされ喘ぎながら、そういうことかと納得していた。どうして今夜がこんなにも、おかしくなりそうなほど気持ちが良いのかとその理由が理解できる。別に今夜だけでは無かったのだ。 身体を離され、うつ伏せへ誘導される。四つん這いになり腰を高く上げれば、間もなくずっぷりと再び沈められ、背後から突き上げられる激しさと、彼の荒い息遣いと時折漏れる甘い声で溺れそうになった。腰が逃げないよう強く固く掴まれ、今までと異なる角度で気持ちの良い場所を突き上げ続ける。 絶え間なく訪れる快感に声を震わせながら、必死に褥を掴んだ。膝に力を込めるががくがくとまるで使い物にならない。ただ彼に支えられるまま、尻を突き出し与えられる快感に喘ぐだけだった。顔が見たい。あの慈悲に満ちた眼差しを浴びながら、中を穿たれる感覚が好きで堪らなかった。 しかしこの態勢ではそれが叶わず、枕に顔を突っ伏し快感を叩きつけられながら想像を巡らせるしか無い。あの全身が溶けるような甘くて優しい眼差しと、堪らず漏れ出る吐息を想像しては、びくびくと身体の奥がぎゅうと締まった。 が達したと同時に動きがぴたりと止まり、再び褥へ仰向けに寝かされる。まるで抵抗ができないまま、再び大きく開かれた股の中心でひくひくと待ち遠しそうに涎を垂らす場所へ熱を宛てがい一息に沈める。 余裕がないのか彼は少し険しい表情で、しかし目線が交われば微笑んで見せる。ゆっくりと体重を載せ、の腰をまるで潰すかのように深く埋めて奥を混ぜるように僅かに揺らした。冬だというのに汗ばんだ肌がぴたりと密着し、暑くてたまらない。 彼の胸板に潰されそうなほど何度も重く体重が乗る。それ以上深く繋がることなど不可能だろうに、それでも足りないと切なくなるほど身体が求めていた。 、と身体の上で彼が名前を呼ぶ。彼の腰に足を絡めながら、何度も波のように襲う快感に息を切らし自然と涙がまた眦から溢れた。彼は少し身体を起こし、の額に唇を落とす。緩慢に繰り返される律動は止まないまま、彼は苦しげに息を一瞬飲み込んだ。 どくどくと、触れた身体から心臓の音が直に伝わる。顔を歪め、荒く息をする浮竹はを抱え込むように再び覆いかぶさり、余裕を失ったように激しく抽送を繰り返す。抉られ叩きつけられ、息が止まるようなびりびりとした快感が全身を駆け抜け、大きく仰け反ったと同時に意識が薄っすらと白む。 身体の中深くに埋まった雄がびくりと蠢き、熱がじわりと滲む。何度も押し込めるように腰を擦り付け、吐息混じりに名前を呼ぶ。は快感の余韻に震えながら、息がまともに出来ないでいた。 一番好きな相手と一番近くにいるだけで余りあるほどの幸福だというのに、それがこの先ずっと続いていく。今はまだ愛情を土台にこの快感を貪る行為が、やがて本来の生殖としての行為になっていくのだと思うと、震えるほど嬉しい。 この身をもって味わいながらも、あまりに非現実的に思える現実に動揺が止んでいない。浅く息を繰り返していれば、彼がのそりと身体を起こし、微笑むとゆっくりと口付けを施した。舌を軽く絡ませ吸い付き、やがて離れる。頬を包んだ彼の手のひらが、暖かくて心地よい。親指の腹で濡れた唇をなぞられながら、はようやく深く息を吸い込んだ。 大丈夫、と彼は小さく零す。ゆっくりと深く繰り返す呼吸の度に、空気がひやりと肺を満たす。身体も頭も、熱くて堪らないというのに、唯一冷たい冬の空気だけが、この瞬間が夢でないことを教えてくれていた。 2023/12/27