保護中: 優しさの奥行きのはなし

優しさの奥行きのはなし 彼を知る人は皆口を揃えて、優しい人だと彼を評する。も勿論そう思う。誰に対しても平等で、そして別け隔てなく見返りを求めない愛情を与える。隊長という立場故に厳しい部分があっても、それは誰より相手を思っての言葉だった。 彼との関係が始まる前、彼はきっとどの瞬間でもありのままなのだろうと思っていた。よく言う、人格の裏表の話だ。人は誰しもそういった部分を持ち合わせているものだろう。も勿論例外ではない。親しい間柄に見せる顔と、それ以外とは多少違う。 浮竹に対して、恐らくは幻想のようなものを抱いていたのだと思う。あんなに温厚篤実な素晴らしい人に裏の顔などあるはずがない。実際、この関係が始まって暫くはその通りであった。 なにも、裏があったという訳では無い。初めて見る顔を、この夜の褥の上で知ったというだけだ。この人にも普通の男性並の性欲があるのだということが、別に不思議なことでは無いというのに、しかし密かな驚きであった。 「、平気かい」 「は、い……でも、あ、ぁ……ッ」 背後から彼の心配そうな声が聞こえる。が、反面身体を貫く雄は凶悪とも思える質量を、ゆっくりと抜き挿しを繰り返していた。 必死で腰を突き出し震える膝で支えながら、力が抜け崩れ落ちそうになると彼に腰を支えられ逃げ出すのを許してくれない。 だが、それが蕩けるくらいに優しい。決して穏やかな行為ではなかったが、その手つきや力加減、言葉全てに彼の普段以上の気遣いと優しさを感じていつもなされるがままだった。 その方が幸せだったのだ。生で彼を感じられるようで、身体の内側からそれを全て味わえる心地が好きだった。 「っぁ、だ、め……い、くっ……」 「構わないよ。……ほら、我慢したら駄目だ」 「でも、私ばっかり、また……ッ……あ、ッ……」 「そんなこと、気にしなくて良い」 深くに埋められた雄が膣奥をしつこく突き上げ、やがて痺れるような快感が走る。息を止め身体を大きく仰け反らせ、彼を咥えこんだまま膣壁はぎゅうと収縮した。頭が白んで意識がぼうっとする。 今夜この感覚は何度目だろうか。三度目までは数えていたが、そこから先は意識が朦朧として覚えていない。三度目の時、彼が奥へ注ぎ込む震える感覚を覚えている。だがそれでも勢いはおさまらず、今に至っていた。 布団に顔を突っ伏したまま、は四つん這いで臀部を突き出しびくびくと震える。軽く添えられた手が、優しく肌を撫でながら尚も刺激を求めるようにゆるりと彼の腰は前後を繰り返す。 「ン……だ、駄目です、隊長、まだいったばっかりで、わ、たし……」 「駄目？こんなに腰が揺れてるのに」 「あ、ッ……だ、だめ、き、もち、いいっ……」 どうすれば求めている刺激が貰えるか、身体が覚えてしまっている。呆れたように彼は少し笑って、腰を掴み引き寄せた。 膣壁が必死で彼を押し返そうとする。中が膨らみ、硬く熱い雄の形が恥ずかしいくらいによく分かる。自分の中に深く埋まって弱い部分を何度も抽送を繰り返し、が半べそで駄目だと訴えても一向にやめる気配はない。 敏感になった陰核を指先で捏ねるように押し付け、背後から何度も突き立てる。再び迫り上がってくる腹の奥のむずむずとした耐え難い心地に、だめ、と枯れた喉で布団へ零した。しかし同時にぐりぐりと膣奥を小突かれ息を止める。 全身がぴりぴりと痺れるような快感に腰を震わせながら、同時にぼたぼたと水が漏れるのが分かる。突っ伏していた顔を僅かに上げて股ぐらを覗けば、抜き出された陰茎と薄い茂みから水滴が滴る。褥の上に大きな染みが目に入ると、顔が灼けるほど羞恥で熱くなった。 残る余韻にぐったりとしていれば、腹を抱えられ仰向けに転がされた。全身から力が抜け、抵抗などする気など起きない。 未だに彼に中心で猛々しく上向いている雄に、は唇を震わせる。あと何度あの快感に辿り着くことになるのだろうかと思うと、恐ろしくも思えたのだ。好きでたまらない相手との幸せな行為のはずが、時折どうしても怖くなる。 乳房を柔く揉み、身体撫でて腿を撫でる。優しい、震えるくらいに優しい手つきだ。膝を開き、再びその突端をの蜜口へと宛てがい難なく沈める。膣を押し広げながら進んで行く快感に膝が笑った。見上げれば彼は優しく目尻を下げ、大丈夫かい、と心配の言葉を口にする。 胸がぎゅうと掴まれるような感覚と同時に、緩やかに繰り返される抽送で甘い快感に達し、彼は満足そうに笑んだ。 「ん、っ……あ、ぁっ……だ、駄目です、今動いたら……」 「こんなに中を締めておきながら、説得力がないな」 ふふ、と彼は穏やかに微笑みながら、まだ抽送をやめようとはしない。ぬちゅりぬちゅりと粘性を帯びた水音と、肌の張り付く音が反響し、増幅した快感に耐えきれず大きく背を仰け反らせながらびくびくと震えた。 心臓がばくばくと激しく脈を打つ。頭が白んで一瞬、眠りに入る瞬間のような心地良さにうっとりした。下半身は甘く痺れ、きっと蜜口はひくひくと引きつっている。 浮竹は満足気に目尻を下げて見下ろすと、の頬に手を伸ばし、目に僅かに浮かんだ涙を指で拭った。 荒く息を繰り返しながら、は僅かに身体を起こし浮竹を恨みがましく見上げる。 「た、隊長……もう意地悪しないでください」 「どうして意地悪なんて言うんだ……が気持ちの良い事をしてあげているのに」 「……そ、それは……」 「俺は、が好きなことをしてあげたいんだよ」 そう笑む浮竹に、は口をつぐむ。駄目だと言っている事を繰り返すことに対して意地悪だとは言ったのだが、そう言われてしまうと何も言えない。 頭がおかしくなりそうなほどに気持ちが良くてたまらず、だからこのまま頭がおかしくなるのではないかと思って、駄目だと勝手に口にしてしまう。きっと防衛反応だ。 残った理性の欠片が、彼を駄目なことをする意地悪な相手だと認識してしまったのだろう。こんなに優しく丁寧に扱われて、彼は誰よりものことを思ってくれる優しい恋人だというのに。とんだ不届き者の理性もあったものだ。 この行為のどこが意地悪だというのだろう。気がおかしくなるくらいに気持ちが良くて、彼からの愛情を有り余るほど感じることが出来るというのに。 浮竹を見上げながら、身体の奥がぎゅうと切なく疼く。 「じゃあ、どうしてほしいか言えるかな」 「も……もっと、気持ちよくしてください」 大きく息をしながらがそう答えれば、いい子だねと浮竹は笑っての頭をくしゃくしゃと撫でる。目を細め唇をそっと重ねられながら、再び始まる律動にうっとりと身体を緩ませる。 腹の奥を突き上げるその重さとは反面、柔い笑みがの心臓を鷲掴んで滅茶苦茶に揺する。 こんなに好くしてくれる彼が意地悪なはずない。いい子いい子、と甘い囁きが降る中、はまた腿を震わせ背をしならせる。 こんなにも身体の奥が熱く重くなるほどの彼の優しさを、他に誰が知っているだろうか。肌が混ざって一つになりそうなほど深く長く重ね合いながら、果てのない幸福に溺れるのだった。 2023/12/11