保護中: 月がどうしてもきみにあれこれする

月がどうしてもきみにあれこれする 「あれ、もうあんなところに」 横に腰を下ろした彼女は、夜空に高く浮かんだ月を見上げて呟く。この屋敷に帰る時は、まだすぐそこに浮かんでいたはずなのに、と少し残念そうに眉を曲げた。 風呂上がりの石鹸の香りを漂わせたは月を見上げたまま、縁側から垂らした足をふらふらと揺らす。 特にそれからは会話もなく、二人でぼんやりと月を見上げていた。確か今日は満月だったはずだ。だがああも遠くては少し欠けていても分からないだろう。そんな事を考えていれば、が身体を寄せるようにひとつ腰を移動させた。 「あんまり外にいると湯冷めするよ」 「大丈夫です、半纏着てますから」 は浮竹を見上げ、そのままどこか物欲しげに口を尖らせる。口付けをせがんでいるのはわかったが、何が切欠だったのだろうかとぼんやり疑問が湧く。少し思い返しながら見ろしていれば、隊長、と急かすように小さく呟いた。 ゆっくりと目を閉じ、せがむように顎を上げたに唇を落とす。断る理由は無い。柔らかい唇を何度か軽く吸い上げてやれば、彼女は満足そうに口を緩ませた。幸せそうな笑みに、胸にじんわりとした熱が広がる。 「どうして、急に欲しがったんだ」 「え、ええと……口付けをですか……？」 「ああ、何かあったのかと思ってね」 「どうしてと言われても……理由というか……そういう気分だったというだけです……」 まあそうか、と浮竹は笑って頷く。理由を聞くほうが野暮だった。浮竹自身も、特に理由なく彼女の唇に触れたい時はある。愛しい相手に触れたいと思うのは至って普通の感覚だろう。 理由を問われて羞恥が湧き出してきたのか、顔を赤くして俯くの頬に浮竹は手を添える。はっと顔を上げた彼女に顔を寄せ、濡れた唇へ再び重ねた。 さっきの触れ合うだけの口付けではなく、舌を伸ばし口内を弄り深く交わらせる。ぬるい唾液を絡ませ、吸い付きながら心地よい舌の柔い肉の触感を楽しんだ。 どれほど続けていたか分からない口付けから一旦唇を離すと、まるで溶け出しそうなの表情に腹の奥がどんより燻る。あの、と彼女は小さく呟くと下ろしていた足を板の間へ上げ、へたりと座り込む。何か言いたげにしながら、そのまま浮竹の傍に擦り寄り膝立ちになった。 ん、と彼女を促すように喉を鳴らしながら、浮竹は膝の上をぽんぽんと叩く。は一瞬固まっていたが、欲を抑えきれなかったのか腰を上げ、浮竹の膝をまたぐと向かい合うように腰を下ろした。 熱を持った重みが膝に乗ると、背に手を回して抱き寄せる。半纏越しでも、やはり人の体というものは暖かい。中断していた口付けを再開しながら、愛しさ以上の感情が徐々に湧き出し始めている事を知っていた。 が口付けの合間に漏らす吐息は、甘く色づいていく。その甘さに乗せられるように、浮竹の身体も徐々に熱を持ちそれを鎮める術にばかり思考が巡ろうとする。それを知ってか知らずか、彼女の手が腹に触れ、徐々に腿へと降りていく。 何かを求めるようにゆっくりと撫でる彼女の手のひらに、浮竹は唇を離しその鼻先で暫く目を見つめた。 「風邪を引いても知らないよ」 「……大丈夫です、すぐ暖かくなりますから」 珍しくはそう煽るように呟き、腰を寄せる。裾を退け下着をずらし、すでに僅かに芯をもった雄を手にすると何度か前後に擦る。ひやりと冷たく細い指先が絡み扱かれながら徐々に血液が巡り、心拍が上がり始める。 膝の上に乗ったはその様子を満足気に見下ろしながら、恐らく彼女好みの状態になるのを待っているのだろう。熱を帯びたその瞳の色を見れば、自然と腹の奥が淀む。下着を緩めたは僅かに腰を持ち上げると、固く熱を持った雄を支えその突端を彼女の中心へと宛がった。 正常な思考であれば、冬の夜空の下で及ぶ行為ではない。だが、それを含めてのこの高揚感なのだろうと思う。痺れるほど寒いはずが、向かい合って抱き合えば体温が重なり熱いくらいだ。互いに厚い綿の半纏を着込んでいるから、それが余計に身体が発した熱を蓄えるのだ。 足を広げ、跨る彼女の身体が安定するように態勢を整える。今からでも布団へ移動すれば良いというのに、ここまで来てしまってはその選択肢さえ消えてしまった。 蜜で泥濘んだその場所を擦るように、腰を揺らし馴染ませる。徐々にぬるぬると滲んでいく蜜をまとい、陰唇は亀頭を包み甘く扱く。二人の体の中心でくちゅくちゅと音を立てながら、徐々に熱が馴染んでいく心地というのは何度味わっても耐え難い快感を伴う。 どちらともない体液で蕩けた彼女の蜜口へ宛てがわれた亀頭は、やがて彼女の体重で徐々に埋まっていく。熱い。彼女の身体の熱を、この場所では一層感じる。熟しきった果実へ無理矢理に突き挿すような圧迫感に、沸き立つ快感を飲み込むため深く息を吐き出した。 「っ、は……ン……」 「あまり声を出したら響くよ」 「分かってます、が……」 浮竹の肩を掴み身体を支えながら、は腰をゆっくりと上下させる。熱く柔らかく、しかしきつく締め上げる心地に自然と吐息は震える。 ぬちゅりと粘着質な音が漏れ聞こえる度に、彼女は一瞬動きを止めた。しかしまた我慢ならないように腰をびくりと揺らして再開させる。 冬の夜の張り詰めた空気の中、防寒のためと互いに半纏を羽織っているというのに、わざわざ裾を分け、下半身を擦り付け合う奇妙さというのは言葉で説明できるものではない。ただ、素肌が触れ合う場所は驚くほど熱く、うっすら身体には汗すら滲むほどだ。 上下の運動を繰り返す度に、身体の奥が熱を蓄えていく。下駄を履いたまま、沓脱石へと付いた足で時折踏ん張りながら、徐々に高まっていく快感を逃していく。態勢のせいか、普段以上にきつく圧迫しながら繰り返される抽送に、油断をすればうっかり漏れ出そうになるのだ。 普段ならば調整をしつつ、が好い場所を小突いて長く楽しめたが、この状況では彼女主導で調整が効かない。きもちいい、と呟きながら腰を激しく揺らす彼女を支えながら、浮竹は腹に力を籠める。 小さく飛び跳ねた彼女は、腰をびくびくと震わせながらぎゅうと身体の奥を締めた。息を詰め落ち着くのを待っていれば、顔を上げたがふふと笑う。 「なんだか……見られてるみたいですね」 「……見られてる？誰に」 浮竹の言葉に一瞬彼女は目線を逸し、月に、と小さく答える。思ってもいなかった言葉に浮竹は微笑むと、彼女は自分で零しておきながら恥ずかしくなったのか顔を俯けて口を窄めた。 彼女の背後の月は確かにこちらを見下ろすように浮かんでいる。淡い月明かりは暗い庭をぼうっと冷たく照らし、この静けさを強調するようだ。 それを背景に短く吐息をこぼしながら、快感を得ようと必死に身体を上下させるの蕩けそうな表情を見つめる。半開きになった唇を時折震わせ、甘い声を喉の奥で鳴らした。 上下に揺れ扱かれる度、背筋の震えるような快感が走る。雄は確実に熱を増しながら、彼女の腟内を押し広げた。彼女自身の動きでもって最奥まで達し、好い場所を彼女の好みの具合で擦る。吸い付く襞が隙間なくまとわりつき、緩慢に繰り返される上下運動は決して激しいものでは無かったが、湧き上がるような快感が腰を震わせた。 徐々に込み上げる感覚に、思わず彼女の臀部を押し付けるように引き寄せるが、固定するように根まで埋め微動だにしない。それはそれで、柔い肉と熱の感覚が心地よかったが、しかしその先に辿り着く為には襞と擦れる刺激が欲しい。 、と促すように、彼女の名を呟き唇を重ねると、また緩慢な腰の上下が再開される。柔らかく溶けるような熱に包まれながら、緩やかに締め上げ繰り返される抽送に、背筋が震え吐息が漏れる。互いに息を荒く吐き出しながら、彼女の中で吐精を求め雄がびくびくと脈打った。 「ッ…………」 「あ、っだ、め……隊長、まだだめ」 「……っは……どうして」 せり上がっていた吐精感を、寸前で止められ思わず情けない声が漏れる。だめ、と笑む彼女を浮竹は見つめ腑抜けた表情でぽかんとする。なおも彼女の中に埋められたままの雄は、あと一歩の手前で拍子抜けをしながらもどくどくと脈打ち待ち侘びていた。 彼女の臀部に添えた手を引き寄せ促すが、すぐに再開させる気は更々ないようで、腰を固定したままいたずらな笑みをただ浮かべる。 「……焦らすつもりかい」 「違います、もう少し楽しみたいだけです」 「それを、焦らしていると言うんじゃないのか」 「そんなつもりは無いのですが」 そう小首を傾げるを見つめながら、舌の根に溜まった唾をごくりと飲み込む。 今までこの行為において彼女が主導権を握る事は無く、なされるがままであった。何も、無理な行為を強いているわけではなく至って普通の男女の営みであったと思う。この行為でしか得られない幸福な快感を楽しむための、正常な交わりだった。それで互いに不足は無かったはずなのだが、今日の彼女は初めて知る顔をしていた。 このまま彼女を抱えあげ、褥の上へ転がすことなど訳はない。しかし彼女の幸せそうな恍惚した表情を見ると、そんな気も失せる。この態勢のおかげで浮竹が自由に動けない事がよほど楽しいのだろう。 多少腰を揺らす事は出来るが、背もたれもなければ彼女の体重を支えているからそう激しい動きは出来ない。それがどうやら、彼女にとって余計に都合が良いようであった。 「ぁっ……ン……隊長……まだ、駄目ですからね」 「ッあ……い、つまで、続くのかな……これは」 「ええと……私が飽きるまで、です……多分」 「そうなると、風邪を引くほうが先かもしれないな」 詰まったように息を吐き出し笑えば、彼女は否定も肯定もせず目を細めた。なおも腰を前後させ煽っては寸前で止められる生殺しに、荒く呼吸を繰り返す。寄せては返す快感に、彼女の身体へまるで縋るように掻き抱く。 必死な姿が情けないと分かっているが、しかし自然と身体が敏感に反応する。あと少しでその快感の頂に辿り着くというのに、それを彼女はどうしても許してくれない。もどかしいというのに、しかしこの蕩けるような快感が永遠に続いても良いとも思う。初めて味わう状況に、情けなく喘ぎながら混乱していた。 抽送は下品な水音を立て、また込み上げた感覚に息をつまらせれば、だめ、と再び動きを止め彼女はいたずらに笑う。二人の間に籠もる熱は、もう暫くは冷めそうにない。その肩越しに浮かぶ月を、浮竹は八つ当たりのように恨めしく思うのであった。 2023/12/9 お題箱ありがとうございました！