楽にしてもらう話

流魂街に発生した虚の特殊個体に対する調査へ、に今朝から向かって貰っていた。 調査に向かった彼女を入れた計三名は、皆女性である。というのも、対象虚が男性ばかりを狙う疑いがあっての事だった。 二週間前から流魂街での住人の失踪が続き、その何れもが男性。護廷から派遣された男性死神二名は任務から数日戻らず、捜索に向かったもう三名の男性死神もそのまま行方不明となった。 何度か女性隊士も現場へ向かったが、不明の男性隊士の霊圧はおろか虚の霊圧ですら捕捉が出来ない。捜索を打ち切り皆生存を諦めかけた数日後、ふらりとはじめに不明になった一人が戻った。 不思議なことに外傷は無く、しかしひどく衰弱していた。それから二人、三人と順に戻ったものの皆同じくひどく衰弱した状態である。意識はあったが何を聞いても彼らは答えず、頷いたり首を横に振ったりして答えることが精一杯のようだった。 卯ノ花による直々の診察と処置が行われたが状況は変わらず、技術開発局より派遣された阿近により脳波や魂魄の検査が行われたが問題は無かった。引き続き彼らは四番隊での経過観察処置となっている。 対象の虚の討伐を無事終えたと報告を受けたのは、まだ昼前のことだ。と共に向かった二名の隊士が先に帰還してのことだった。 技術開発局の検分の立ち会いがあり、の帰隊にはまだかかると言う。虚の能力や詳細は調査後明らかになるとして、二名に軽く状況を聞いてみれば戦闘能力自体は並の虚以下であったというから驚いた。瀞霊廷を俄に賑わせた一件にしては、あっけない幕切れである。 彼女が隊舎へ戻ったのはそれから数時間後、昼食を終え隊舎の見回ろうかと思っていた頃だった。簾の外から聞き慣れた声が浮竹を呼ぶ。 簾を手で避け現れた彼女は書類を小脇に抱え、ひどく疲れた様子に見えた。俯き気味に浮竹の前へ腰を下ろすと、一つ深い息を吐く。 珍しい様子に思えたが、早朝から流魂街への任務だけであればまだしも、技術開発局の検分に付き合わされよほど疲れたのだろう。 「今日のところは休みを取ったらどうだ。あとは読んでおくし、補足があるなら明日で良い」 「い……いえ、疲れている訳では無いのです。お気遣いありがとうございます」 「だが……調子が悪そうに見えるよ。頬も赤いし、熱でもありそうだが」 そう言って自然と彼女の額へ手を伸ばそうとすれば、慌てて飛び退き首を横に振る。驚いたのか、若しくはまるで嫌がるような様子にも見え、少々面食らいながらも、悪い、と一言呟いた。 だが、その顔を見れば明らかだ。頬は赤く、虚ろな目は潤み呼吸も穏やかではない。ぐったりと疲れているのかとはじめは思っていたが、どうやら具合が芳しくない様子だった。 不安げに見つめていれば彼女はさっと顔を逸らし、誤魔化すように手にしていた書類を浮竹の前へ滑らせる。 それを手に取ると彼女は一転、一つ咳払いの後に滔々と報告を始めた。無理をしてやしないかと浮竹は眉を曲げていたが、一先ずはと書類へと目を落とし、彼女の読み上げる文字を追った。 「……夢魔？」 「古くから西洋で伝承の悪魔のようで……」 浮竹は彼女の読み上げを一旦遮る。初めて聞く名称だった上、その先に並ぶ文字が彼女の声よりも先に目が入り戸惑った。 もう良いよと、読み上げをそのまま終わらせれば、はどこかほっとしたようにも見えた。だから初めから今回の読み上げは良いと言っていたというのに。 浮竹は報告書に再び目を落とし、続きを追った。 虚はどうやら精液を養分とする体質を持つようであった。また擬態能力を持ち、はじめらが発見した際は女性の裸体姿であったという。物理攻撃は並の虚に劣るものの、幻覚作用のある粘液を吐き出すことが出来た。 そこからは阿近による憶測となるが、女体に擬態した虚はに男を誘い昏倒させ、幻覚により淫夢を見せたものと思われる。男が淫夢に囚われている最中、専用の器官で生殖器を刺激し、吐出させた精液を取り込んでいたのでは無いかとの見立てだ。 思っても居なかった報告に浮竹は暫く黙っていた。 今まで数々の虚と対峙し見聞きしてきたが、そんな類いの能力は聞いたことがない。どう反応すれば良いのか分からず、眉間に皺を寄せ険しい顔で報告書を暫く眺めていた。 搬送された隊士たちに衰弱以外の症状がない点、そして押し並べて口を開かなかった理由にようやく合点した。死神ほどの生命力を持たない流魂街の住人は、そのまま捨て置かれ衰弱し、帰ることは無かったのだろう。 現在は虚の能力も明らかになった為、阿近から直々に被害を受けた隊士らに聞き取りが行われているところだという。調査結果を聞かされれば、彼らも流石にその重い口を開くことだろう。 今まで不可解だった点について、辻褄が合った。だが、内容が内容だけに恐らく表沙汰にはされることはないだろう。いや、そうあって欲しい。でなければこの報告書を隊首会で読み上げるのは浮竹となる。その様子を思い浮かべると、ぞっと背筋が寒くなった。 ようやく報告書の内容を飲み込み顔をあげると、は俯いたままぐったりと足を崩している。内容に衝撃ですっかり彼女の具合が悪い事を忘れていた。浮竹は彼女に近づくと覗き込むように呼びかける。今度は飛び退くことはなく、面を上げて虚ろな目を浮竹へと向けた。 「平気かい。辛そうだよ」 「い、いえ……そんな事は」 「やはり熱でもあるんじゃないか。息苦しそうだ」 「熱……と言いますか、その……そういう訳ではないのですが……」 彼女はそうもごもごと答え、やがて口を結ぶ。様子がおかしいのは具合が悪いからだとばかり思っていたが、どうやらそういう訳でも無いらしい。 しっとり伏せた瞳は潤み、濡れた唇から短く吐き出す吐息はますます熱っぽい。黙っている割に何か言いたげにも見え、しかし察するにはあまりに状況が見えない。浮竹はその妙な様子を暫く、黙って見下ろしていた。 「……討伐の際に返り血を浴びてしまった事を報告したところ、要検査になりました」 「それは……技局で、ということかい」 「ええ、はい。虚から成分の特定が出来たとか何とかで、阿近さんが念のためというので……」 「ああ、そうか。だから遅かったのか」 頷く彼女に、結果は、と浮竹は食い気味に尋ねる。 彼女は少し驚いたように眉を上げたが、息を整えるよう深く息を吐き出す。僅かに開いた唇の隙間から聞こえる微かな呼吸音がやけに湿っぽく鼓膜に響く。自然と息を詰めていた。それは彼女の憂いた顔が、真昼に似つかわしくないように思えたからだった。 言葉の続きを待ったが、は視線をうろうろとさせるのみで無言のままである。検査を受け、結果どうだったのかというところを浮竹は聞きたかったのだが、言い淀むという事はまさか芳しくないのか。 「虚の血中毒が皮膚から吸収されてしまったようで、症状の緩和まで一日はかかると」 「毒……？それは……平気なのか。解毒剤とか……入院の必要は」 「い、いえ、命の問題はないようで……解毒剤の為の解析にはもう暫く時間がかかるらしく」 体内の免疫で解毒される方が早いのだろう。彼女は落ち着かないのか指先を揉みながら、浅い息を繰り返す。 毒と聞いて一瞬身体が強張ったが、命に問題が無いのならば何よりであった。彼女の熱っぽい様子は恐らくその毒が原因だったのだろう。何を今まで言い淀んでいたのかと、安心して自然と表情が緩む。 「具合が良くないのは毒のせいか。命に別状が無いにしても、今日は早く休みなさい」 「い、……いえ、本当に……大したことは無いんです。熱もないですし、息も、苦しくないですし……」 とてもそうは見えない。心配に思いながら、浮竹は自然と彼女へと顔を寄せる。頬が赤い。先程よりも一層、熱でもあるのではないかというほど様子は明らかにおかしかった。再びその額の温度を確かめようと手を伸ばすと、彼女はまたもや逃げるように首を引っ込める。 今にも泣き出しそうな表情のまま後ずさりをする彼女に、浮竹はとうとうその腕を掴みぐ、と引いた。やはり言動がどこかおかしい。こうも妙な様子のまま逃げ出されたのでは困る。 無理に聞くような真似はしたくはなかったが、逃げようとするのだから致し方ない。彼女の腕を掴んだまま、せめて彼女自身から言葉が出るまで黙って待った。 「……そ、その……阿近さんが言うには、体質が一時的に虚と似てしまっているようで……」 ようやく口を開いた彼女は、細い声を震わせてそう零す。体質、と頭で反芻する。先の報告で、虚は精液を専用の器官で摂取し養分にする体質であったと聞いている。浮竹は自然と息を潜めた。 それと同じくして、彼女の身体からふと力が抜ける。彼女の腕を掴んでいた力を緩め、そのままするりと手のひらまで滑らせ指先を握った。手のひらはうっすら汗ばみ、その指先まで火照っている。 それ以上に尋ねる事など無いほど、この状況を理解するには十分な言葉だった。今までの彼女の様子、そして虚の成分を吸収し体質が近似してしまっていることを、彼女はどれほどの勇気を持って告白してくれたのだろうか。 彼女を見下ろす眼差しに、熱が籠もり始めるのが自分でも分かる。彼女が何を欲してそれほど身体を熱くさせているのかとそれが分かった今、彼女への気遣いに何か他の感情が混じり始めていた。 「でも、一度鎮静剤は打っていただいたんです……ですが、効いたのは一瞬で……かといって、また打っていただいてもきりがないですし、阿近さんはもう一日どうにか耐えてくれと、……それか、若しくは――」 は言葉をそこで切り、口を噤みながら浮竹の目をちらと見た。そして、目線がかち合うとすぐに逸れる。 彼女の意思に反して、内側から勝手に湧き出す欲求がどれほど辛いか、それは察するに余りある。苦しい思いをしている相手を見て、楽にしてやりたいと思うのは至って普通の感情だと思う。力になれないのならばただ願うだけだが、今この状況で浮竹は幸運にも手段を持っていた。 ならばいくらでも力を貸してやりたいと思うのは、上司として恋人として当然だろう。その手段がこの度は特殊なだけだ。内心、そう己を納得させることに浮竹は躍起になっていた。 「同じことをすれば、楽になるのか」 「い、いえ……その……」 でも、と彼女は視線を泳がせながら、しかし否定しない。否定できないほど差し迫っているのだろう。雨乾堂へ顔を出した頃よりさらに息が上がり、唇は艶っぽく誘うように濡れている。とても他人に見せられるような様子ではない。 辛いに違いない。崩した膝をもぞもぞと擦り指を揉み、つま先は畳を引っ掻いている。身体の奥でゆく宛もなくふつふつと煮える熱に動揺し、抑えつけるのに必死なのだろう。 握った手から、汗が滲むのが分かる。彼女の一瞬の葛藤がその表情から見て取れたが、しかし結果は明白であった。 「……いま、ですか」 「手短に済ませよう」 でも、と彼女は狼狽えたが、それは至って正しい反応だと思う。手短であろうがなんだろうが、行為の手順にそう変わりは無い。 はそう戸惑った素振りを見せたものの、間もなく頷いた。可哀想なことに、勝手に湧いて出る欲求には抗えないのだろう。 午後のこの時間は比較的来訪が少ない。かと言って全くないという訳では無い。手短と言ってもそう一瞬で終えるような行為ではないから、万が一誰か近付けば全てが終わる。だが徐々に燻っていく欲を前に理性は濁り、根拠のない無敵感に満たされたまま彼女を引き寄せ抱きかかえると、胡座の上へと乗せた。 淫靡な欲を持て余しながら、いじらしくまごつく姿に劣情を擽られていた。きっと早く鎮めて欲しくてたまらないのだろう。その溢れて留まらない欲へ必死に蓋をしながら、しかしその瞳の奥の熱を隠しきれていない。 細い体はいとも容易く腕の中へと収まり、そのまま物欲しげに薄く開いた唇へと口付けを重ねた。二度三度、触れるくらいを繰り返し、唇を甘噛みしてやがて舌を伸ばしぬるりと絡める。温く柔い濡れた舌を交わらせ吸い付いた。 の固まっていた身体は緩み、膝の上にぐったり乗る重みが堪らなく愛しい。口付けだけでここまで蕩け、この先どうなるのかと恐ろしく思えた。 滲む焦りと期待で、前紐を緩めるまでそう時間はかからなかった。はもぞもぞと袴を脱ぎ、浮竹の崩した胡座を跨ぐように腰を下ろす。対面でまた何度か口付けしながら、彼女の手は自然と浮竹の股ぐらへ伸びた。 「……隊長、こんなに」 「……」 し、と彼女の鼻先で返せば、彼女はぎゅうと口を閉じる。前身頃を左右に雑に避け、露出した下着の上から彼女は包むように触れた。ゆっくり布をずらされ、腫れ上がった雄がこぼれる。 身体の素直さには呆れるほどだった。恥ずかしながら、この行為でしか彼女を楽にすることが出来ない事に気づいた頃から、既に下半身の違和感には気づいていた。この状況を予見し、愚かにも少なからず期待したからなのだろう。 頭をもたげるそれには優しく触れる。指先で軽く扱かれるだけで、その甘い快感に血が巡りどくりと脈打つ。微かに聞こえる、彼女短く荒い吐息とともに、にゅくりと先端から染み出す汁を塗り伸ばすよう器用に往復させた。 焦ったようには体を寄せる。開いた足のその中心へ、その腫れ上がった亀頭を宛てがった。普段ならばもう少し前戯に時間をかけるものだが、この状況でそうはいかないのが惜しい。しかし前戯など要らぬほど蜜口は潤い、つぷりと突端が埋まると甘く徐々に締め付けていく心地が快感となり、背筋まで駆け抜けた。 口付けしか交わしていないというのに、はしたなく泥濘んで浮竹を迎える。待ち望んだ感覚だったのか、まだ挿入の半ばだというのに彼女は浮竹の身体にしがみつきながら、背を仰け反らせ苦しげに息を漏らして小さく震えた。 この感触は何度も知り、飽きるほど味わっているはずだというのに、擦れる度にどうしても感嘆の吐息が漏れる。ぬちゅりぬちゅりと、空気の粒を含んだ粘膜の交わる音を控えめに漏らしながら、彼女が求めるものの為とその滑らかな腿を撫でた。 誰が訪れるか分からない状況で愚かしくも欲情し、ゆるりと繰り返される淫らな腰の揺れによって、欲は波打ちながら増していく。 んん、と彼女は喉で小さく鳴き、熱い息を吐き出す。意識して声を出すまいと、音を漏らすまいとしながら、しかしその燻る熱は互いに抑えられないでいる。衣擦れの音がぎこちなく、時折途切れながらもしつこく繰り返されていた。 「ん、ッ……は……ごめん、なさい……こんなこと」 「謝らなくて良い。仕様のない事だろう」 「は、い……っあ、ンっ………」 仕様がないのだと、そうでも思わなければこの異常な状況を受け入れている事実で目眩でもしそうだった。 は腰を、腿を震わせながら、ごめんなさいと掠れた声で漏らす。こんな場所で覚える快感が後ろめたくて仕方ないのだろう。それは浮竹も同じであるが、しかしここまでして今更どうしようもない。 なるべく音を立てぬようにと気を使ってか、彼女によってもたらされる細かく緩やかな上下の揺れは、内側の粘膜の心地を一層艶めかしく、生々しく感じさせた。 ここまで溺れながら、何をしているのかと時折我に返る。視界の眩むような快感とが交互に訪れどうにもこの行為に集中しきることができない。集中せねば彼女の求めるものを与えられないというのに、どうしてもこの慣れた光景が邪魔をした。 今誰かが急な報告で駆け込んできたらと、淀む思考の合間で懸念している。室内の様子は遮られているとはいっても、物音までは遮れない。渡り廊下から足音が聞こえれば、万事休すといったところだろう。 馬鹿な選択をしたと思う。だが彼女の苦しげな表情を見ていながら、症状が落ち着くまで一人で耐え忍ばせるような事を出来るはずがない。一時的にでもおさめられる方法があるというのなら、そしてその手段が自らにあるというのならば、手を差し伸べてやりたい。 と、そう言い訳をしたいのだ。今この状況は致し方ないことなのだと納得して、与えられる快感だけに身を沈めたい。この行為に自らもつれ込ませながら、この期に及んでまだ僅かに残ってしまった理性が今は邪魔で仕方がなかった。 身体にしがみつく彼女は、顔を上げ切なく歪める。隊長、とこの距離でしか聞こえないくらい微かな声で囁き、口付けを求めるように瞼を閉じる。ふっくらと柔らかい、しっとり濡れた唇に齧り付くように応えてやれば、更に彼女の膣は蕩けて絡みついた。 すき、と口付けの合間で彼女が何度も零す。すきという言葉が重ねられる度、思考が濁っていくのが分かった。腰を前後に揺らし自ら具合の良い場所を擦り、膣を収縮させ震える。快感と、その先に得られるもののことしか彼女の頭には今無いようであった。じっとりと汗を滲ませながら、息を荒く繰り返しながら、細い腰を壊れた絡繰りのように夢中で何度も揺らすのだ。 その乱れた様子をぼうっと眺めていれば、途端に、此処が何処であるかなどどうでもよくなった。頭の中が空になり、ただ快感と彼女への愛しさだけで満たされる。劣情は増し、彼女の腰を掴むと混ぜるように揺らした。向かい合っての座位という態勢もあってか、普段より一層深くまで穿つ感覚が堪らず、漏れ出そうになる声を必死で吐息へ変え吐き出す。 「……ッ、ぁ……ほ、ほんとに、きもちい……っ…」 「…っ……、声」 「あ、っ……ぃ、くッ……」 陰茎を深く飲み込んだまま膣は吸い付きうねり、あやうく吐精を導かれるところだった。は必死にしがみつきながら、声を押し殺して震えている。押し寄せる快感に長く息を吐き出し往なしながら、吐精を踏みとどまってしまった愚かさに呆れる。 彼女の症状は精液を取り込むことで一旦は落ち着くはずだ。こんな場所での白昼の行為を早々に終わらせるには今は絶好の機会だったというのに、うっかり普段の行為のように吐精感を飲み込んだ。 焦りとは裏腹に、まだもう暫くこの心地を楽しんでいたいと身体は感じているのだろう。深く息を吐き出しながら、彼女の細い身体を抱きしめる。 「……いつもより、興奮されてませんか」 まさか、と掠れた声で返したが、顔が引き攣った。自覚はしていなかったが、図星であったのか。 真昼の業務中に肌を合わせて、興奮する変態が何処に居るというのだ。そう咄嗟に否定したというのに、彼女の口はまるで確証を得たかのように歪む。その見透かされたような笑みを誤魔化すように、再び唇を寄せた。 ぎこちなく前後する彼女の臀部をまた掴み押し付ける。根まで深く埋めればきつく収縮を繰り返し、尻の柔らかな肉はびくびくと痙攣した。また一層彼女に埋め込んだそれが硬く熱を持ち、脈打つのが分かる。 最奥を突き擦るように彼女の腰を掴み揺らす。雁首で彼女の腹の裏のざらついた敏感な場所を甘く剥るように深く上下させれば大きくうねり、心地よさそうに肉壁は窄んだ。絶えず蜜は擦り合う陰毛に絡みつき、糸を引いく。 彼女は今にも泣き出しそうだというのに、その口元は満足そうに弧を描いている。時折口づけをねだりながら自ら腰を揺らす淫らな姿に堪らず、腹の奥が一層淀んだ。どくどくと、脈打つのが分かる。 「っ、ぁ……も、お願い……します……」 「良いのか、本当に……このまま、此処で」 彼女は無言でこくこくと頷き、押し込むように腰を細かく揺らす。一度は飲み込んでいた吐精感が再び顔を出し、追い打ちをかけるかのような動きに情けなく声が漏れかける。 まるで搾り取るように波打つ膣壁に、促されるがまま白濁を射出した。深い場所で吐き出したそれを受け止めながら震える彼女は、満足そうに熱い息を吐き出す。体温の心地よさに彼女を掻き抱きながら短い余韻に浸っていた。 だがいつ誰が訪れるか分からない状況で、そう長くこのままでは居られない。名残惜しそうに腰を持ち上げずるりと抜き出せば、溢れ落ちる前にちり紙へ受け止め、べったり濡れた蜜を拭うと、下着を身に着け死覇装を手本通りに着付けた。互いの無駄のない後始末に感心しながら、乱れた髪を手櫛で整える。 余韻も何もない。今誰かが訪ねて来たとしても、まさか少し前まで身体を重ねていた二人とは思わないだろう。だがこの汗ばんだ肌が乾き、籠もった熱が消えるまでには、もう暫くかかりそうであった。 「それで――加減は」 「……お陰様で、楽になりました。……本当に申し訳有りませんでした」 「謝るのはやめてくれ……が悪い訳じゃない」 「ですが、……その…付き合っていただいてしまったので……本当に、……申し訳有りませんでした」 頭を深々と下げる彼女に、浮竹は気まずく目線を下げる。彼女の為と言い聞かせながら、この行為へと誘導したのは自分である。結果的に誰が訪れる訳でもなく、比較的手早く済ませることが出来たから良かったものの、もしもと考えれば背筋が凍るほど恐ろしい。 明らかにどうかしていた。だが不思議と後悔は無い。偶々誰が訪れることも無く無事にことを済ませることができたからだろうが、しかし確かに今は名状し難い高揚感があった。それは恐らく彼女も同じなのだろうと思う。なんとも安い背徳感だ。 横に退けていた書類を彼女は纏めると、封筒へ滑り込ませて立ち上がる。まだ膝に力が入りにくいのか、覚束ない足取りを咄嗟に支えようと手を伸ばしかけたが、大丈夫だと彼女は首を横に振る。そのまま、まるで逃げるように簾を上げ、深く頭を下げると足早に去っていった。 まだ腕には生々しい体温が残る。揺れる簾を眺めながら彼女の首筋に滲む汗が目に焼き付いて離れず、浮竹は独り自然と喉を鳴らすのだった。 2023/07/11（2024/1/12修正） サキュバスネタを書きたかったです