花知れず夜に沈む-3

立ち昇る湯気を閉じ込めるように蓋をしめる。その丸い蓋をしばらく見下ろしたまま、ううんと一人唸っていた。 彼の出立の前、執務室へ呼び出されて渡されたのは彼の自宅の鍵だった。初めは何かと思ったものだ。隊舎の何処かの隠し部屋のものかと頓珍漢なことを尋ねれば、浮竹は笑って自宅の鍵だと答えた。 突然手渡された意味がわからず手のひらの上の鍵を見下ろしていれば、盆栽に水をやってほしいのだと頭を下げる。はあ、と頷きながら思わず情けない声が漏れた。喜べば良いのか、一瞬舞い上がった事を恥じれば良いのか、兎も角隊長に頭を下げられるのは困る。 どうやら盆栽というのは水やりが大切で、特に最近迎え入れたばかりの若い樹には一日でも水を絶やせないのだという。長期で離れる際や、屋敷に戻れない日が続く場合は懇意の庭師に依頼をするようだが、今回の任務は急だったため都合がつかなかったということらしい。 合鍵かと舞い上がった数秒前がますます恥ずかしくて、はどうにも消えたくなりながら、勿論ですと、表面上では二つ返事で快く承知する。そうして朝と夜、一日二度の水やりをに託して、浮竹は颯爽と瀞霊廷を後にしたのだった。 予定では二日という話だったが、恐らくそこまで掛からないと彼は言っていた。明日の日付が変わる前には戻れるはずだと言う彼の見当通りとなれば、恐らく間もなくだった。 彼の屋敷には以前一度だけ訪れたことがあった。だからか、足を踏み入れる際にもあまり緊張はしなかった。この生活感のない殺風景も手伝っているのやも知れない。 この屋敷に初めて訪れたのは、まだ席官に上がる前のことだったと記憶している。その頃浮竹の体調が特に芳しく無く、雨乾堂での療養から彼の自宅に場所を移して卯ノ花が直々に足を運び治療を行っていたのだが、その補助要員として一日だけ駆り出されたのだった。 直接治療に関わるわけでは無く掃除洗濯や粥を煮るだけだったが、数日後には浮竹が雨乾堂へ戻ったと聞き、微力ながらも役に立てたように思え嬉しかったものだ。 遠い昔のように思える記憶が蘇り、暈けていた焦点を再び鍋の蓋へと合わせた。この蓋の下では煮物が沸々と煮立っている。どうしてこんな事をしたのかと今頃になって後悔しているが、この屋内にすでに充満している香りを彼の帰宅までに誤魔化すことは難しいだろう。 どういう気の迷いか、彼の帰りを待つように夕飯の準備をしていた。この鍋の蓋を閉じ我に返るまでは少なくとも良かれと思っていた思考回路が今は恐ろしい。 仕事を終え、盆栽への水やりの為ひと目を忍びながらこの屋敷へ足を運ぶ途中でふと思い立ち、適当に具材を買い込んでしまった。大体、彼がこの屋敷に帰ってくるかも分からない。もともと生活の殆どを雨乾堂で過ごしている浮竹のことだから、その可能性のほうが高いと言うのに。 喜んでくれるだろうかと、そんな浅い考えだ。深夜近くに、夕飯などとうに済ませている事だってあり得る。鍋の蓋を見つめながら、どれほどの間この状況を後悔していたのか分からない。再び我に返ったのは、玄関から物音が聞こえてからだった。 彼の帰宅を待ち望んでいたはずがさっと冷や汗が滲み、慌てて火を消し、ばたばたと土間から板の間へ上がる。廊下へ顔を出そうかとまごついている間に、目を丸くした浮竹が陰から覗き込んだ。 「お、おかえりなさいませ……」 「ああ、その……ただいま」 の姿が予想外だったのか、しばらく彼はぽかんとしていたが、の背後で蓋の隙間から湯気を漏らす鍋に気づくとその表情を柔らかく崩した。 「夕餉まで用意してくれたのか」 「す…すみません、本当は盆栽にお水を上げたら帰ろうと思っていたのですが、もしかしたら隊長が帰られるかと思って……差し出がましいのですが」 はは、とは気まずさを誤魔化すように笑う。口に出しながら、今自分がこの状況に至るまでの理由を改めて辿ってしまった。きっと浮かれていたのだ。喜んでくれるかもしれない、など自己満足に近い。 羞恥は頬へ熱を持たせていくというのに、相反して頭はどんどんと冷えてゆく。彼の顔を見上げることが出来ず、少し俯き気味に彼の腰紐の辺りをじっと見つめていた。 、と彼が呼ぶ声が頭に落ちる。その顔を見上げてしまえば、彼がこの状況をどう思っているか察しがついてしまう。迷惑に感じただろうか。彼がそんな意地悪でないと分かっていても、こういう場面では負の想像ばかりが過ぎってしまうのだ。 その時、ひたりと頬に彼の手のひらが触れた。まごついているに痺れを切らしたのか、頬を包んだ彼の手のひらは少しばかり強引に顔を上向かせる。 「やっと帰ったのに、顔も見てくれないのか」 「い、いえ、すみません、そんなつもりではなくて……」 顎を上げ彼の顔を見上げたまま、目線をわずかに流す。ほら、と浮竹は指摘して笑うから、いたたまれず眉をハの字に曲げた。 微笑む彼の細められた瞳から、ほのかに帯びる熱の色が見える。帰宅早々、何が彼をそうさせたのかは分からなかったが、そんな疑問は頬に触れた彼の熱のせいで些末なことだった。 彼が腰を屈める仕草に、胸がどくりと鳴る。近づく彼の鼻先と、肩からはらはらと滑り落ちる絹糸のような白く長い髪。思わず見惚れていれば彼は微笑み、間もなく唇に感じた柔らかな感覚に身を任せは目を閉じた。 唇をこじ開けるように、ぬるりと生ぬるい舌がなぞった。彼の思惑通り、艶めかしいくすぐったさで堪らず緩んだその隙間へ更に舌が侵入する。存外それが強引であった事にたじろぎながらも、必死に応えるように舌をぎこちなく差し出した。 出会った舌先を絡め取り吸い付く彼の唇は、どこか焦りを感じるような性急さでの口内を蹂躙する。必死に息継ぎを繰り返しながら、中から溶かされていく感覚にただ身を任せることしか出来ない。 ぬるい粘膜の触れ合いは、の思考を緩やかに鈍くする。今まで苛まれていた羞恥はどこかへ隠れ、ただ与えられる官能と幸福にぐったりと身も心も預けていた。 どんなだらしない顔をしているのだろうかと思う。必死に舌を差し出し涎を垂らしながら、きっとひどくはしたない顔をしているのだろう。彼はどうなのだろうか、とはふとした興味でうっすら目を開ける。 薄く開いた先で、彼のじっとりとした視線とかち合った。力の抜けた彼の目元は、の目線を捉えると優しく弧を描く。どくりと跳ねた心臓にふと我に返ると、彼から離れるように一歩後退りをした。あの温い舌の感覚を忘れられないというのに、それがはひどくしたないことのように思えて振り払おうとする。 「……ご飯、食べますか？まだ温かいですよ」 はかまどの方をちらと見て答える。我ながら溜息の出るような阿呆な誤魔化し様だと思う。熱を帯びた空気から逃げるように咄嗟に口走ってしまった。 案の定浮竹は少し困ったように眉を曲げ笑ったが、その眼差しはどこか思いつめたようにも見える。だが、かと言って何か答えるわけでもなく、黙って呼吸の音を聞いていた。 やがて二人の僅かな無言の時間は、彼が腕を引き、再び軽い口づけを落としたことで終えた。 背に回った腕はそのままを抱えあげ、突然の浮遊感に思わず身体を固くする。 「また後で温め直してくれるか」 「は、はい……いくらでも温め直しますけど、その……」 腕の中で言い淀むを見下ろした浮竹は僅かに目を細める。これから何が起こるか分からないほど馬鹿ではない。あのどろどろとした口づけを繰り返され、この二人だけの屋敷で何かを予感しないほど愚鈍ではない。 恐らく互いにこの状況を望んでいただろうに遠回りをした。互いに少なからず、この性急さに戸惑いがあったのだろう。だが一度身体が熱を持ってしまえば、この状況の脈絡のなさなどどうでも良くなるものだ。 板張りの廊下を少し進み、襖を雑に開ける。部屋へ身体を滑り込ませ、そのままろくに閉めないまま畳の上へ仰向けに寝かされた。初めて見る天井を背景に、彼が両の手を顔の脇へ付き、どろりと見下ろす。長い髪が簾のように垂れ、ふらふらと呼吸に合わせ揺れた。 無言で視線をただ絡ませているだけだというのに、体温が上昇していくのが分かる。規則通りに身に纏った死覇装が窮屈に思え、いつ彼の手が紐を解いてくれるのかと期待に息が詰まりそうだった。 「寂しかったのは、俺の方だったみたいだな」 「……隊長、あれだけ私に言わせようとしていたのにですか？」 「こんな筈じゃなかったんだよ。たった二日程度……いや、二日も経っていないか」 会いたかった、と彼は呟くようにこぼす。出立前、やけにしつこくの口から寂しいと言わせようとしていた事を思い出し、ふふと笑みを漏らした。 あれは単に誂われていたのだろうが、それが彼へと跳ね返りでもしたというのなら可笑しい。 実際、は彼の体調や任務がもし危険なものだったらと心配はしていたものの、寂しいとまでは思っていなかった。二日程顔を合わせないのは、この勤務体系や職務内容を見ても特別珍しいことではないのだ。 今ほどの口づけの熱はその焦燥が理由だったのか、ああも焦れた舌使いを思い出しどくりと胸が脈打つ。 腹の上に、彼の手が載る。布を通しても伝わる体温にそっと息を潜めた。指先は前で結ばれた腰紐をつつと解いていく。布擦れの音と、潜めるような息遣いの中、解き終えた袴をずり下ろし脇に退けると、前の合せを左右に開かれた。 顕になる素足に浮竹は触れ、ゆっくり太腿まで滑らせ撫でる。身を捩るほどくすぐったいというのに、ずっと触れていて欲しくなる。内腿の皮膚の薄い場所を指が這い、しっとりと湿る中心へと辿った。 「あ、っ……待っ……」 下着をずらした指先が入り込み、つぷりと沈む。口付けだけで、もう解す必要などないほどに潤みきっていたことを知り、羞恥で顔に血が昇る。 この期に及んで、僅かに身体を起こし逃げ腰になるが、彼は腕を捕みそれを許さない。覆い被さるように視界を遮った彼はの顔の脇に手を付き、足の間には膝を置かれた。これでは逃げようがないどころか、固定された状況に近い。 優しく内側を撫でるようにその指は甘く引っ掻き、はゆっくりと背を弓なりにした。だらしない声が口から溢れる。陰核に蜜を塗りつけながら、彼の節くれた指は膣内を往復する。 ぬちぬちと嫌な音がする。どれだけ身体が彼を待ち侘びているのかと思い知らされる。まだその最後まで知らない身体だというのに、こうもはしたない。 今まで何度か過ごした夜で、彼はの好い所を覚えたのだろう。首筋に、胸元に唇を落としながら馴らすように指の根まで沈めて奥をゆるりと愛撫する。腰の奥から何か沸き立つような感覚に腿を震わせる。 胸元の合わせを徐々に崩され、ずらされた下着から乳房が顕になる。既にぷくりと立ち上がった尖りを舌で転がされ、耐える術もなく身悶えした。 「っん、ッだ、だめ……」 「我慢しないで良い。ここなら誰に聞かれることもないよ」 「っ、ちっ…違うんです、っだめ……」 我慢をしているのではない。奥深くから込み上げる快感に動揺している。まだ触れられてそう時間は経っていないというのに、早くも達しようと自ずと揺れる腰の動きに気付いても止める術がなかった。 乳頭を甘噛し吸い付かれながら、最も弱い場所を何度も擦り続ける。ちゅくちゅくと指先の動きと共に微かに漏れる水音に嬌声を絡ませ、やがて弾けるような快感と同時にびくびくと震えた。 全身を駆け抜けた甘い痺れが緩み、は滲んだ視界で彼の姿見上げる。彼は身体を起こし、膝立ちとなり自身腰紐を解いているようだった。の荒い呼吸音と布の擦れる音だけが耳に入る。 やがて、見下ろす彼の視線をは返せば、良いか、と短く彼は聞く。息を震わせながら、小さく頷くと彼は卒なく下着を取り去り、ずるずると膝を擦り身体を寄せた。 足を開き、その間へ彼の身体が置かれる。膝に触れた彼の手によって更に広く股は開かれた。肌同士が張り付くように触れ合い、思わずびくりと震える。 今まで叶わなかった事へ、これからきっと至ることになるのだろう。そう思うと心拍はまた上がり、自然と握っていた手のひらを更に強く握った。 ひたり、となにか硬いものが触れる。泥濘んだ花弁に塗りつけるように往復するその突端は、指先とは比べ物にならないほどの質量を持っていた。 腰がびくりと震える。本能として、生殖機能を持つものとしてその瞬間を待ちわびていることが分かる。硬く膨張した雄をこの身体へ受け入れることを、本能として待ち望んでいる。その証拠として、媚びるような声が口から漏れるのだ。 彼は深く息を吐いて、ひどく真剣な表情をしている。その猛々しい雄とは似合わぬ真面目くさった表情がどこか可笑しかったのに、ゆっくりと埋められた未知の感覚に掻き消された。 身体が割かれるような痛みがぴりぴりと伝わる。息を止め、顔が歪み喉から苦しげな声が漏れた。心配をかけぬよう努めていたのだが、しかしこの余裕などひとかけらもない状況で装うことは難しかった。 不安げに眉を曲げた浮竹をは涙の滲んだ目で見上げながら、大丈夫、とうわ言のように繰り返す。 「力を抜けるか」 「ぬ、いてる、はずなのですが」 もう少し、と彼は笑うとの頬に手を触れる。指の腹でするりと撫でるとその手のひらは額の上の方へと移動した。大丈夫、とまるで親が子に言い聞かせるような柔らかい声音が降る。 無言でこくこくと頷き、彼の言う通り緊張で固まった身体から力を抜こうとするのだが、そう意識をするほどに却って力が籠もってゆくような気がしてならない。 いつもどうやって力を入れたり抜いたりしていたのか、瞬きはどれくらいの頻度だったか、いつも手のひらは開いていたか握っていたか。彼が求めることを返せない焦りで、普段無意識に出来ていた事が今は分からない。焦りが焦りを呼び、心拍が無為に上がっていく。 温かい手のひらがゆっくりと頭を撫でた。それがあまりに優しい手付きだったから、胸の奥が自然と熱くなる。安心させようとしてくれているのだろう。こんな状況で無理だ、と思ったものの、身体というのは素直なもので僅かに力が緩んだらしい。 まだ先端を甘く食んでいただけの膣口へぐぷりと沈む。一瞬のことにはびくりと身体を震わせる。動揺する間もなかった。全て収まったのかと思ったが、まだゆっくりと沈みながら圧迫し続ける感覚に、息を止めた。 「ン、っ……」 「痛むなら言うんだよ」 「っ……はい、…は、い」 本当を言うならば既に逃げたいほど痛む。だが確実にその痛みとは異なる感覚が先に待っていることが分かる。痛いと言ってしまえば彼はこの行為を止めてしまう。唇を噛み、奥歯を食いしばりながらくぐもった声を漏らした。 裂くように、彼の雄は割って入る。優しい笑みを浮かべ、声だって眠たくなるほど柔らかいと言うのに、身体だけはひどく無遠慮だった。だが今までの準備が出来るまでと辛抱強く待ってくれていた事を思えば、この程度大した我慢では無い。 深い呼吸を繰り返しながら、徐々に深く沈んでいく彼の熱を懸命に受け入れていた。彼の薄く開いた唇の隙間から、低く吐息が溢れる。それが堪らず官能的で、身体の奥がじくりと疼いて緩んだ。 今まではただ彼から与えられる快感に身を震わせるばかりが、今は彼にもまた返すことが出来ているのだろう。それが単純に嬉しかったのか、感慨深く思ったのか、薄っすら瞳に涙が滲む。 「痛むか、平気か」 「いえ、すみません……違うんです」 不安そうに眉を曲げた浮竹に、は申し訳なく肩を窄めた。まだ体の奥はわずかに痛むが、今はさして問題ではない。彼を不安にさせた事に侘びながら、小さく呟く。 「……嬉しかったんです」 「…それは、俺も同じことだよ」 そうふっと目元を緩ませた浮竹は、緩慢に腰を揺らした。 異物が身体を抉るような感覚だと言うのに、今まで味わったどんなものより満たされるような心地だった。ぬちゅり、ぬちゅりと粘ついた水音が緩やかな抽送に合わせて漏れる。 鈍い痛みは体の奥でまだ響いていたが、それ以上に深くで触れ合う幸福と、体内を隙間なく彼で満たされた充足感で余りあった。 「っ、は…ァ……き、もち…ぃっ……」 「……ああ、そうだね」 「ン……は、ッあ……っ」 ぐ、と体重を載せるように押し込まれる。恐らく、ようやくその根まで収まったらしい。せめて圧迫感を逃そうと深く呼吸を繰り返しながら、足の指は畳を掴むように丸まった。 想像をしていた感覚とは違った。彼の指先で味わった快感とも違う。だが、これが恐らくこの行為による気持ち良いと評されるものなのだろうと思う。肌が隙間なく触れ合う滑らかな心地、身体の重みと、その熱を誰にも何にも邪魔されることなく二人だけで共有する。 彼の背に腕を回し、必死でしがみついた。でなければ、身体の内側から溶けて無くなりそうだった。蜜はどろどろと奥から染み出し続け、そのお陰かは分からないが抽送は滑らかに絶え間なく繰り返される。 熱く屹立した彼が、膣内の襞を剥りながら奥を優しく小突く感覚に、やがて甘くだらしない声を漏らすようになっていた。深く触れるほどに、彼の硬い熱をまざまざと体内で感じてそれが堪らず心地よい。 最も深い場所で、何の隔てもなく繋がっているのだと、そう感じるとどうしようもない快感が駆け抜ける。身体の奥が自然に窮屈になるのが分かった。彼を締め付け、この行為の終わりとされる所まで至ろうと、身体が勝手に機能していることにただ感心する。 「……っ、あ……隊長、わた、し……もう」 「…ン……はッ…………」 「も、もう…ぁッ……」 どくり、と埋まった彼の蠢きが分かる。浮竹は切なげに顔を歪め、額には汗をにじませていた。乱れた髪が散らばり、意外にも余裕なげであった表情には背筋をぞくりと震わせる。 身体を倒した浮竹は、に口づける。荒く何度も吸い付く口づけを繰り返しながら、律動はなおも続いていた。その形を教え込むように、何度もしつこく抉る抽送が繰り返される。粘性を増した体液が二人の間で濁った糸を引き、下品な音が漏れた。 いっそう深く入り込んでいるのが分かる。初めはあれほど身体は固く拒んでいたというのに、肉壁は馴らされ柔軟に形を変えて彼を受け入れているのだからおかしい。 はじめは訳の分からぬ異物感で混乱していたはずが、今は妙に気分が高揚し彼の腰へ足を絡ませ擦り付ける。今までゆるゆると優しく続いていた抽送は、徐々に深く一度の往復の間隔も短くなっていた。 浮竹は眉間に微かに皺を刻んだまま、時折甘く噛むように唇を重ねる。口づけをするだけであれほど初めは緊張して目眩すらしていたというのに、今は言葉を交わすかのように自然と重ね合う。 だがいっそこの状況においては、会話をするよりも都合が良かった。初めて知る快感に溺れながらまともに言葉を紡げるはずなどなく、それに何より舌の交わるぬるい体温が気持ち良かった。 汗ばみ湿った肌同士のぶつかり合う音が、この静かな夜の寝室に規則正しく響く。時折性急に、そして緩慢に繰り返しながら性感の果てを求めることが明らかな執念深さだった。 彼の動きが鈍り、体内でひとつどくりと脈打つのを感じる。先程よりもずっと大きく、熱い拍動にの身体も一層波打つように大きくうねる。堪らず高く声を上げ、がくがくと腰を揺らした。 眉根を寄せた浮竹は最後に一度深く穿ち、の身体が快感に跳ねた瞬間、ずるりと抜き出た雄は腹の上へと熱い白濁を放つ。こんなものが身体の中に埋まっていたのかと、ぬらりと鈍く光を返す陰茎をぼんやり眺め背筋を震わせた。 彼は絞り出すようににゅくりと扱くと、まだ残った体液がぽたぽたと垂れる。甘く低い吐息を漏らす浮竹は、今まで知ったどんな表情よりだらしなく、愉悦に満ちたものだった。 腹で感じる彼の熱にはただ呆然と恍惚とする。指で薄く伸ばすように皮膚へ塗りつけると、震える息を長く吐き出しながら、彼の汗ばんだ顔を見上げて自然と微笑んだ。 「ご飯より前に、お風呂温めたほうが良さそうですね」 「……ああ、違いないな」 そう照れくさそうに顔を綻ばせた浮竹だったが、ふとその目の奥に淀みが見えたのはきっと気のせいではない。 頬に伸びた指先が優しく撫でる心地に目を閉じながら、二人の呼吸だけが交じって落ちる夜の静けさに、そっと身を浸すのだった。 2023/04/23