眩しくて少し熱い

31日

眩しくて少し熱い

 

 毎年恒例で行われている隊内の武術大会が開催された。対戦表は全てくじ引きで決め、勝ち抜きで勝者を決める至って簡単な試合形式だ。鬼道は一切厳禁、その身一つの真剣勝負である。
 募集型ではあるものの隊士の殆どが参加し、その優勝者は尊敬と羨望を集める。しかしここ十年以上は海燕の一人勝ちが続いていてそれはどうしたって揺るがない。その為注目されるのは、決勝で海燕とどこまで渡り合えるかというところだった。
 つまり、準優勝者が実質の優勝であり、皆は海燕との決勝での対戦を目標として、この大会に挑んでいる。
 浮竹としては、いつ海燕を凌駕する者が現れるかとそればかりを楽しみに過ごしている。それは彼も同じだろう。いつ自分と渡り合える者が現れるのかと、楽しみに毎年この時期を迎えているに違いない。
 大会期間はおよそ一週間となっており、昼休みや就業後の時間を使用して進められる。浮竹もその全てに顔を出せるわけではないが、時間が取れれば道場を覗いていた。

「どうだった、決勝は」
「あいつにしては善戦だったんじゃないんすかね」

 熱い茶の入った湯呑を片手に、海燕は笑う。大会はつい半刻ほど前に、今年も無事海燕の優勝で幕を閉じた。
 今年は実力通り、順当に勝負がつく対戦が多く、あまり番狂わせの起きない大会だと思っていた。だが準決勝にて、千世がまさか仙太郎を下す予想外の事態が起きてしまったのだった。
 大番狂わせの状況に、勝負の行方を見守りたい隊士で道場は満杯となっていた。だが結局、決勝戦が始まりものの十数秒で彼女はねじ伏せられ、そこから挽回の余地は無く勝負がついた。
 副隊長と五席の彼女とでは、勝負が始まる前から結果は見えているようなものではある。だが、皆もしかしたらという気持ちが心の隅にあった事は同じだった筈だ。仙太郎を下した奇跡がまた起こるかもしれないと、皆期待していた。

日南田、あいつ初めからビビりまくってましたよ。まさか決勝に行く予定じゃなかったんでしょうね」
「そうだろうな。勝負がついた後、ホッとしてたように見えた」

 浮竹はそう思わず笑う。床に頬を付けたまま、あそこまであからさまにホッとした表情を見せられれば微笑みたくもなる。海燕と対峙する緊張と恐怖から、負けることで解放され安心したのだろう。

「開始すぐ、俺の脇腹に潜り込もうとした判断は良かったんすけどね。あいつ、判断力はそこそこ悪くないっすよ」

 そうだろう、と浮竹は頷く。まだ未熟な部分は多いが、彼女の判断力は目を瞠るものがあると思う事が多かった。今回の大会でも、千世の対戦はほぼ顔を出していたが二倍ほどの体格差がある相手にも果敢に挑み、勝利を重ねている。
 斬魄刀も鬼道も使用しないこの大会において、体格とは一番の武器だ。にもかかわらず華奢な彼女が決勝まで勝ち残れたのは、彼女の咄嗟の判断が優れている事を間違いなく意味していた。
 それに何より、年を追う毎に確実にその実力を伸ばしている。ここ数年は準々決勝での敗退、それより前は三回戦での敗退が続いていたか。そう思えば、今年決勝へ駒を進めたのは、多少の幸運に恵まれたとはいえ、順当とも言えるのかも知れない。
 若者の成長とは、やはり眺めていて嬉しいものだ。気力に満ち溢れている。その努力の積み重ねを間近で感じ、見守ることが出来るのは隊長として、年寄として何より幸福なことだと思う。

「なんか隊長、日南田の保護者みたいっすね」
「……保護者…?どうして」
「なんつうか…やけに……」

 海燕の言葉に、浮竹は腕を組み首を傾げる。えー、と言葉を探すように宙を見る海燕を待っていたが、結局誤魔化すように茶を飲んだ。

「何だ、言ってくれ。気になるだろう」
「……それより隊長の湯呑、茶柱立ってませんか」

 盆の上に置いていた湯呑を指差した海燕に、えっと声を上げ持ち上げる。浮かぶはずもない茶柱を、浮竹は丸い水面を覗き込み、目を皿にして探すのだった。