答え合わせはせずにおく

31日

答え合わせはせずにおく

 

 隊に所属する隊士同士が、近く籍を入れる事になったのだという。朝、本人たちから聞かされ目が飛び出すかと思ったものだ。
 そんな素振りを全く見せず、恋人同士だったと聞くだけでも充分驚きだと言うのに、まさかそれを超えて夫婦になるとはたまげた。隊長に挨拶をちょうどしてきた所だったと幸せそうに微笑み合う二人に、千世もつられて口元を緩ませたものだ。

「驚いたよ、まさか二人が付き合ってたなんて思わなかった」
「え?千世さん気付いてなかったの?」
「……え?」

 知ってたの、とぽかんと返せば、当たり前でしょ、と清音は呆れたように千世を見て首を振る。
 昼時、隊の食堂へ顔を出すと見つけた目立つ髪色の前に腰を下ろしたのだ。彼女はもう食べ終えようとしているところだったが、時間があるから千世が食べ終えるまで話に付き合ってくれるというからその言葉に甘えた。
 そんな中でそういえば、と先の話を持ち出したのだ。

「公然だったの?」
「いや、公表はしてなかったけど、見れば分かるって。あの二人っていつも特別な距離感あったからさ」

 そうなんだ、と呆けた顔で千世は頷く。二人とは特別親しかった訳ではないが、同僚としてそれぞれ会話することはあったし、更に彼ら二人を含めた同じ班で任務に出たこともあったが全く気づかなかった。
 そう、だからこそ二人の結婚には驚いたのだ。随分うまいこと隠していたものだと感心した。
 だが清音の言い方からすれば、気づいていなかったのは自分くらいなものなのだろうか。

千世さんって意外に鈍いところあるよね」
「やだな、清音さんが敏いんだよ」
「いやいや、だってあの浮竹隊長だって知ってたくらいだよ?」
「え?…浮竹隊長ってそういうの、何というか…鈍いの?」
「鈍いというか……恋愛というか…色恋沙汰とかと一線を引いてる感じするじゃん?だから、隊長が気付いてた事にちょっと驚いたんだよね」

 へえ、と千世は情けない声を漏らした。何と反応をすれば良いのか分からなかった、というのもあったが、今胸に湧いた名状しがたい靄がかった感情に名前がつけられず思考が止まったのだ。
 清音の言う通り、浮竹と色恋との結びつきというのは確かにいまいち想像が出来ない。彼の立場や人柄、その年齢考えると妻の一人や二人、子供の三人や四人居そうにも思えるが、そういう訳ではない。
 男女問わず慕われ、そして男女問わず隊の内外を問わず愛情深く接する姿というのはどこか浮世離れした存在に思えることがある。それほどまでに彼の平等とは地の果てまで真っ直ぐ続くように見えるのだ。

「どうしよう、浮竹隊長が実は結婚するとか急に発表したら」
「な……何でそんな、その……噂が…?」
「噂は無いけど、でも隊長って、そういうのが見えないじゃん…?だから今後いつか急に言い出す事があるのかもって、今想像したらなんか……食欲無くなってきた」
「今食べたばっかりだからでしょ……」

 そう返しながらも、千世の腹も急にかさが上がってくるのを感じていた。千世も自然と想像をしたが、もしそうなった場合めでたい事ではあるが、数十年単位の片思いをしている者としては、どうしても受け入れがたい状況ではある。
 引き続きげっそりしている清音に悟られないよう、残りっていた握り飯を口に放ると咀嚼もそこそこに茶で流し込む。ごくりと腹へ落としながら、何とも味のしない茶漬けであった。