ままならぬ君

視察旅行というのは名ばかりのものであった。 言い出し始めたのは十番隊の松本と八番隊の伊勢のようで、もともとは女性死神協会だけでの現世への視察旅行を計画していたのだという。 というのも今、瀞霊廷内の一部地区の開発計画が進みつつあった。現在繁華街に立ち並ぶ店舗を大きな建物一棟へ集約するような計画をどうやら進めているらしい。古くから営んでいる商店や飲食店も建物の老朽化が著しく、ここ数年で建て替え案などが出ていた。 それがどういう訳か、大規模な開発計画へと話が広がっているのだという。とはいっても隊首会で軽い説明があっただけで、浮竹も詳細は知らない。というよりも、まだ詳細を決めかねているというところなのだろう。現在の町並みを残したいという者も多く、複数案を立てて検討する段階のようだ。 ついては、現世の大型商業施設の見学が彼女らが言う視察旅行の目的であった。進歩目覚ましい現世の技術と先進的な感覚を学ぶ為と、彼女らは一泊二日の視察旅行計画書を予算申請と外出許可の為一番隊へと提出した。 それは条件付きで許可され、つまりその条件というのが男性死神協会の同行である。女性死神協会では偏った報告になりかねないという総隊長の危惧により、急遽加わる事となったのである。 しかし伊勢や砕蜂、卯ノ花による反発は激しく一時はどうなることかと思ったが、最終的に大前田の財力が効いた。大前田家と何やら縁があるという現世の高級宿での宿泊を提示すると、それならばと女性死神協会も手の平を返した訳である。 「現世の最近の子って皆可愛いんだから驚いたよ」 「…お前は女性ばかり視察していたようだが、これは瀞霊廷商業地区再開発の為の…」 「まあまあ、そうお硬いこと言いなさんな。こんな機会滅多に無いんだから、偶には楽しんだって良いじゃない」 京楽はそう気楽に言い、刺身を口に運ぶと満足気に口元を緩める。 彼は今回の視察団に含まれていなかったのだが噂をどこからか聞きつけ、射場に許可を貰い同行することとなった。案の定、仕事が残っている筈だと終始怒る伊勢を慣れたように躱しながら、誰より現世を満喫する姿に感心したものだ。 視察という名の買い物と観光を終えた視察団一行は、そのまま都市からほど近いこの宿へと移動した。竹林に囲まれた静かな温泉宿で、普段は現世の高級旅館として営業する他、大前田家や親族の者が静養で時折立ち寄るようである。 各自部屋で過ごし、湯を楽しんだ後は広い座敷での宴会が用意されていた。大前田に話を聞けば、今夜は急遽宿自体を貸し切ったのだというから驚いた。それもそうだろう、人間からすれば得体の知れない団体客に違いない。 実際、旅行先での宴会ともなれば京楽すらも呆れるほどの羽目の外しようであったから貸切で正解だった。まだ一時間も経っていない筈だが、あれよあれよと酒瓶が既に何本も並び、数人が畳の上へ屍のように転がる光景には唖然とする。 隣の卯ノ花をちらと見れば上品に微笑んでいるが、有無を言わさない酌で既に何人かを屠っている張本人であった。 「何で抜け出さなかったの」 「…何が」 「ほら、途中。ボクが何度も気利かせて二人になれるようにしてたのに」 「余計な世話は焼かなくていいと言っただろう」 横からぼそぼそと呟く京楽に、僅かに身体を寄せ浮竹も同じく小声で返す。 流石に十数人の大所帯で混み合った施設の中を行動する訳には行かず、自然と数人単位に別れていった。その中で気づけば勇音と清音、そしてと京楽とで共にしていたのだが、やけに京楽が浮竹へ無言で目線を送ることがあった。 彼が意図する事は嫌でも分かったが、そういうつもりで来た訳ではない。施設内に他の隊員も散らばっている中、抜け出した所で見つかる可能性は高く不用意な行動には出れ無い。だから途中、余計な世話は焼くなと釘を差したのだが。 浮竹はふと斜向いに居る彼女へと目を遣る。伊勢と松本に挟まれたは、随分気分が良さそうに頬を紅く染めている。浴衣から覗く首元も薄っすら色づく様子に、それくらいにしておきなさいと、そう一言伝えたい所だがこの状況では叶わない。 「折角なんだから、少しくらい話せば良かったのに。全く会話が無いっていうのも、どうかと思うけどね。逆に露骨で」 し、と思わず浮竹は指を口の前へ立てる。京楽はわざとらしく眉を上げてみせ、猪口へ口をつけた。 意識をしてしまっていることには違いない。普段とは全く違う場所と状況で、人前で不自然な距離感にならぬよう気を遣っていた。 も浮竹の意図に勘付いていたのか、はたまた彼女自身もそう思っているのかは知らないが、わざわざ傍に寄るような事もなかったのだ。 しかし露骨すぎたか、と今更京楽の言葉を反芻して一人苦い顔をする。朝の集合から今の今まで、彼女と共に行動をする時間は度々あったというのに、一言も会話を交わしていないというのはまあ確かに不自然極まりない。 しかし、何も好きで避けていた訳ではない。気を抜きやすい場面で、下手を打てばこの先永く後悔するに違いない。今まで穏やかに緩やかに築き上げてきた関係を今後も継続するためにも必要な事だった。 たがそう周りの目ばかりに気を回しすぎるあまり、その姿が周りからどう見えるかを疎かにしていた。実に不器用かつ情けのない話である。 思い返しながらどうにも居心地が悪くなった浮竹は、思い立ったようにすっくと立ち上がった。 「どうしたの」 「厠だよ。ついでだから、酔い覚ましに散歩でもして来る」 「酔い覚ましって程飲んでないじゃない……まあ、ごゆっくり」 がやがやと賑やかな宴会場を出ると、そのまま廊下を進む。 この宿に到着した頃軽く辺りを散策したが、空を覆うほど高く伸びた竹林が見事であった。よく手入れされた竹林に囲まれており、外へ出れば多少の風でもざわざわと竹の葉が擦れる音で満たされる。 館の周囲は散策用か細い道が石畳で舗装され、邪魔にならない微かな灯火が転々と置かれている。まだ宴席の賑やかな声が微かに聞こえる中、ふと立ち止まり竹林を見上げれば実に見事な光景である。 この眺めを暫く楽しもうと辺りを見回したが、しかし腰掛けるような気の利いたものは生憎無く、仕方なしに館の壁板へと背を預けた。 季節柄、涼しい夜風が心地良い。高く伸びた竹の立派に伸びた葉の、その濃紺の背景にはぽつぽつと星が散っている。 瀞霊廷ほど鮮やかな星空ではないが、中々悪くない光景だった。暫く無言で夜空を見上げていれば、今更あの賑やかさへ再び戻るような気になれない。 このまま自室に戻り休もうかと思ったその時、石畳を進む足音が耳に入りふとその方向へと目を遣る。あ、と思いもよらぬ姿であったのは彼女も同じだったのか、ぱたりと足を一瞬止めた。 浮竹はその姿を呼ぶように、組んでいた腕を解き軽く手を上げる。ぱっと表情を変えたは、少し小走りに傍へと寄った。 「こんなところで、どうされたんですか」 「少し酔ってしまったから、夜風でも浴びようと思ってね」 「嘘ですよ。隊長、全然呑んでらっしゃらなかったです」 少し置いて、知っていたのか、と浮竹は返す。は少し微笑んで頭を軽く下げると、浮竹のすぐ横へと移動し同じように壁へ背をもたれた。暗い夜空へ伸びる竹林を見上げたは、ふうと息を長く吐き出す。 「こそどうした。戻らなくて良いのかい」 「…今日はあまりお酒が美味しく呑めなかったので、実は抜けてきました」 の言葉に、浮竹は首をかしげる。随分楽しそうに呑んでいたように見えた。檜佐木や伊江村、朽木や清音達と随分楽しげに呑んだ後は、松本と伊勢に挟まれて幸せそうにしていた筈だ。 いや、何も、まさか見張っていた訳ではない。つい目に入った。浮竹の元にも代わる代わると酒瓶を持った者が集っていたが、丁度斜向いに居るの姿は嫌でも目に入る。彼女が口に含む酒の量を見ながら、いつその酒癖の悪さが顔を出すかとはらはらとしていたのだ。 だが確かに、今こうして会話を交わす限り特に普段と様子は変わらない。僅かに頬を染めているあたり酒は入っているのだろうが、酔うほどの量ではないのか。見る度に器を傾けていたように思えたが、口を付けるだけで呑み込んでいなかったのだろうか。 「楽しそうにしていたじゃないか」 「楽しかったですよ、こんな機会滅多に無いので…」 「ならどうして抜けてきたんだ。戻らなくて良いのかい」 「…どうしてそんなに避けるんですか」 そう少し拗ねたように答えたに、浮竹は一瞬狼狽えた。 違う、と咄嗟に答える。避けていたつもりはない。浮竹からすれば、不自然な距離にならぬようにしていただけの事だった。 酒が美味くないと彼女が言った理由はそれか。いやまさか、と浮竹は慌てて口を開く。 「悪い、そんなつもりは…ただ、」 「分かっていますよ。でも、逆に怪しいです。…隊舎に居る時のように、いつも通りにして下されば良かったのに」 彼女は僅かに目を伏せ、そう口を尖らせて言う。怒っているというよりは拗ねているのだろう。 「悪かった。…少し、意識しすぎていた。この歳にもなって、情けない話だよ」 「いえ…私もはじめはそうでしたよ、あまり不自然にならないようにと。…でも、あまりに隊長が露骨なので…」 「……そんなにか」 浮竹は思わず眉を曲げて尋ねると、彼女も困ったように笑って頷いた。 「周りは分からないかもしれませんけど。…ああ、でも清音さんが、具合が悪いのかなって心配していたくらいです」 「そうか…いや、しかし…悪かったよ。嫌な思いをさせただろう」 「…謝らないでください」 「だが、折角の楽しい席を……」 浮竹の言葉半ばに、に袖を引かれて口を閉じる。彼女は壁に凭れていた背を起こして、浮竹の前へと立った。どうした、とその目を見下ろすとその小さな口をもごもごと開く。 「謝る代わりに、…お願いがあるのですが」 「お願い？」 言ってみなさい、と促してみると彼女は少し目線をうろうろとさせた。辺りを確認するような様子の後、はぎこちない仕草で指先で自らの唇を触れる。つんつん、と指差すように彼女は唇に触れ、浮竹は黙ってその姿を見つめていた。 つまり、唇に触れてくれという事なのだろう。流石に、察しの悪い浮竹でも分かった。だがまさか此処で求められるとは思わず俄に戸惑いが浮かぶ。はにかんだ彼女は顔を上げたまま何か物欲しげな目線を向け、浮竹は咄嗟に辺りを見回した。 断る選択肢が生まれなかったのは、浮竹自身も満更ではなかったからだろう。今日一日不器用に距離を取り続け、我慢ならなかったのは自分も同じだった。湯上がりの浴衣姿を宴会で晒される事も許容し難いものであったというのは、口に出せないほどの愚かしい感情である。 腹の中でそう感情が燻る中、可愛らしくねだられれば何かが切れたように彼女の腕を引く。目に入ったのは、立ち並ぶ建物の間に生まれた細い路地であった。 突き当りは壁、大人二人が横並びになって通れるほどの幅である。手を引いたまま粗い砂利の敷き詰められた上をざりざりと突き当りまで進むとその閉塞感は、この場合安心感と倒錯した。 「す、すみません、変なお願いをしてしまって…」 「…謝るなら、どうしてねだった」 「いえ、なんと言いますか…何だか今更、…緊張してしまって」 ふふ、と彼女は誤魔化すようにぎこちなく笑う。調子を崩された。彼女にしては随分珍しい積極的な様子は、多少なりとも酒が手伝っているのかと思っていた。 だが、きっと素面に近い。顔を近づければ酒の匂いはしないし、呂律の回らなさも無い。それに、おずおずと唇を差し出すように顎を上げた彼女の睫毛は緊張に震えていた。 やめようか、とその首筋を指先で触れながら尋ねてみるが、首を横に振る。此方まで伝わるような張り詰めた様子に、つられて細く吐き出す息が乱れた。 普段のように大切に触れる、厚みのある褥の上とは違う。勿論この場所で彼女に触れる事など本意ではないが、これは彼女の願いである。せめてもと、浮竹は彼女の頬を手の平で優しく包み腰を屈めた。 自然と瞼を閉じた彼女へと顔を寄せ、その柔らかな唇へ触れる。そう深い口づけへ至るつもりは無かった。 その頬がもう少しばかり色づくくらいで止めようと思っていたのだが、誤算だったのは彼女が浮竹の胸元へ寄せた手の平が、縋るように浴衣を掴んだ事だった。 彼女の細い腕を振り払う事もできず、甘く吸い付く柔らかい心地に思わず頭がぐらりと揺れる。彼女の舌が唇をなぞり、ぞくりと背筋を走る官能はゆっくりとたがを外しに掛かるようだった。 いかん、と思った頃には既に遅い。彼女の伸びた舌を受け止めると絡ませ、軽く吸い上げる。ぬるりと温く柔らかく、纏わり付く舌を気づけば互いに夢中になって交わらせていた。その合間で浅く息を継ぎながら、彼女の背に腕を回し抱き込むように唇を貪る。 とその時、もぞもぞと動いた彼女に、浮竹は思わず目が覚めたように唇を離し顔を上げた。 「…、何をして……」 「いえ、だって…その……」 丁度腹の辺りに違和感を感じたのだろう。それは浮竹も同じであったが、敢えて気付かぬようにしていた。彼女も同じように知らぬふりをしてくれるだろうと思っていたのだが、やけに身体を擦り付け揺らし、熱の篭もった視線を向ける。 まずいとの身体を引き剥がしに掛かったものの、駄目だとでも言うように帯を握って引き寄せた。 「きっと誰も来ないです、こんな所まで」 「そ、ういう、問題じゃない。…やっぱり酔っているんじゃないのか」 「酔ってるかどうかは、分かりませんが…今すごく、どきどきしてます」 は、そう囁きながら浴衣の上へゆっくりと這わせた手を徐々に下ろしてゆく。もともと、妙な様子ではあった。口づけをせがむことは今となっては未だ良いとして、やけに身体を寄せて胸板や腹を撫でるように触れていた。 その手は帯からさらに下降し、腹を過ぎ丁度股のあたりへ辿り着くとその浴衣の下を確かめるように撫でる。 「止めなさい、こんな所で…」 「こんな所に連れ込んだのは、隊長ですよ」 「だが、何も俺はここまでの事をするつもりは…」 「…だって、ほら…説得力がないです」 ごくり、と思わず唾を飲み込んだ。僅かに熱を持った股間の膨らみを捕えた彼女の手の平が、軽く握るようにしてゆっくりと撫でる。そこで彼女を引き離す事が出来ないのだから、何かを言えた義理ではない。 あれだけ長い口づけを繰り返していれば身体は自然と、僅かにでも生理現象として反応をしてしまうというもので、それを説得力がないと評されてはもう何も言えまい。 それに気を良くしたのか、彼女は浴衣の裾を開き、下着の上から指先でつつと浮竹の形をなぞる。 思わずぴくりと腰が揺れると、彼女は嬉しそうに目線を上げた。下着に指をかけた彼女はゆっくりとずらし下ろすと共に腰を落とした。 彼女の思惑通りその下から現れたのは、その本来の形を顕にした姿だ。屈んだ彼女の顔の前に晒され思わず腰を引く。しかし気づけば背が壁に付くほどに追い詰められ逃げ場もない。目の前で頭をもたげるその姿をは恍惚したように眺め、熱く吐息を漏らした。 彼女が指先で支えるように触れると、それは驚くほどに鋭敏に反応した。 「っ……やめ、なさい。…もう、そこまでに」 「……止めて欲しいようには見えないです」 ああもう、と彼女の上目遣いを見下ろしながら頭を抱えたい気分であった。 掠れた牽制の言葉は虚しく砂利の上へと落ち、彼女の唇はとうとうその先端を甘く咥えた。 何度か啄むように触れた後、膨れ上がった鈴口を薄桃色の唇がぱくりと咥え、まるで飴玉を味わうように口内でぬるぬると舌で舐る。舌先は裏筋をなぞるように固く尖らせ往復し、浮竹は思わず堪えるよう上向く。 吸い付く音を立てながら口に含み、肉竿を舌でくすぐる事を繰り返されれば、痛いほどに起ち上がり太ましく変化したそれをは恍惚として見つめた。 大きく口を開いた彼女は再び口内へ含むと、先程の浅いものから一転、深く飲み込む。ん、と喉元から漏れる微かな声と共に、ゆるりと前後に頭を揺らす姿は目にも毒でしかない。 うっとりとした目線を時々上げながら、彼女の舌は淫らに口内で絡みつき強く吸い付く。声を漏らすまいと、浮竹は必死に浅い息を繰り返しながら背を壁へと預ける。 だめだと時折小さく咎めるような言葉をかけつつも、しかし強引に止めさせる事はしないのだから愚かであった。そう咎める言葉を掛けるだけで、この状況を肯定している訳ではないのだと思い込みたいのだろう。 肯定している訳ではないが、しかしこの状況へ陥ってしまったのは致し方ない。つまり不可抗力であって、それは男女の妙というものであって、自ら喜んで招いた状況ではないのだと責任の所在を有耶無耶にしている。 兎に角、この絶え間なく与えられる快感を受け入れる理由を、一つでも見つければよかった。この状況は致し方ないのだと、そう頭で反芻しながら深く咥え込む彼女をまた見下ろす。 彼女の口内で舌に撫でられながら肥大してゆく欲は、びくりびくりと脈打つ。情けない息を漏らし、掠れた声で彼女を呼べば嬉しそうに目を細めた。 頭を前後に揺らし、強く吸い上げ徐々に上り詰める中、突如その動きが止まる。思わず見下ろせば、その醜くいきり立つそれは彼女の唇から離れていた。 唾液と体液を纏ったそれは、ぬらりと鈍く光を返す。 「っ、……」 「…私も、もう我慢出来なくて…」 彼女はそう呟きながら腰を上げると、浮竹の前へと背を向けて立つ。と、おもむろに彼女は腰を突き出し、浴衣の裾をたくし上げた。白い足がこの微かな明かりの中で顕になり、その滑らかな肌の張りに自然と目を奪われる。 同じ柄の浴衣を身につけているというのに、こうも扇情的にその肌を見せつけられる。壁に片手を付き、振り返ったは目線を流して急かした。 「…駄目ですか」 「今更、駄目と言えると思うかい」 彼女がたくし上げた浴衣の裾を握ると、もう片一方の手で彼女の腰を掴んだ。 彼女の薄い下着に指をかけ、腿まで下ろす。求める中心へ指先で触れれば、思わず息を呑むほどに蜜が滲み滴っていた。自然と心拍が上がり、風が通り抜けるようなこの場所でも暗い褥の上と同等か、いやそれ以上に興奮しきっている事へ呆れたくなる。 しかし、今更止められるほどの理性は失っていた。つい先程、うっとり目を潤ませる彼女に全て吸い取られでもしたのだろう。 半歩ほど草履を擦って前へ進み、その顕になった双丘の中央へと熱の突端を宛てがった。ぬるりと滑るそこへ触れると彼女はびくりと震え、平らな壁を掴むかのように指先を丸める。 腰を突き出し、早くとでも言いたげにはちらと振り向き目線を上げる。猫くらいしか通らぬような薄暗い路地裏でするような事ではない。そう頭では理解していても、今更この昂りを抑える術はこの行為しか知らなかった。 何度か往復させ彼女のその淫らな入口を暗がりで探し当てると、やがて突き立て体重をかける。つぷりとその熱の中へと割って入り込めば、吸い付き纏わり付くように浮竹を迎え入れる。 強く押し返すほどの抵抗を受けているというのに、彼女の唇からは恍惚したような吐息が漏れるばかりであった。無意識に逃げる彼女の腰を掴まえると、ぐ、と押し込む。深く入り込み、びくりと震えた彼女の細い背を見下ろした。 「…触れてもいないのに」 「っそ、れは……」 その奥までじっとりと蜜の滲んだ様子に、思わず感嘆の溜息が出る。腰を引き、また揺らせばいとも簡単に奥まで飲み込まれた。普段、褥の上では入念に指先で慣らしてから交接へと及んでいたが、今は指一本も事前に触れていなかった。 ただ半ば強引に始められた口淫を受け入れていたのみであったが、それだけでこうも彼女が蜜を垂らすほどの興奮を得ているとは露ほども知らない。その細い体が、やがて深く貫かれることを期待していたのだろうと思うと、胸が詰まるほどの愛しさが込み上げる。 、と囁くように名前を呼べば、僅かにびくりと腰が跳ねた。堪らず、その奥を求めて深く抽送を繰り返す。 揺さぶるほどに乱れた浴衣は、ほぼ衣服の意味を成していない。開けた合わせからは柔らかな膨らみが溢れ、二人の動きに合わせて誘うように揺れる。まるで綿菓子でも掴むように手の平で包み、壊さぬようにゆっくりと崩した。 ぷっくりと起ち上がった先端を指先で軽く摘み、弾く。微かに漏れる彼女の甘い声は時折詰まり、と同時に深く呑み込むその中はきゅうと締まった。 「ん、っ…ぁ…だめ……」 「、…しずかに」 「っん、ぅ…」 高い声は、この竹林のざわめきの中でも目立つのだ。身体を倒し囁けば、彼女はびくびくと腰を突き出したまま震える。思わず小さく声が漏れるほどにきつく締め上げられ、僅か動きを止めた浮竹は細く長く息を吐き出した。落ちそうになる彼女の腰を支えながら、再び緩んだその奥へゆっくりと押し込む。 彼女の膝が震えているのが分かる。必死に壁を掴むように引っかきながら、再び開始された抽送に浅い息を繰り返す。懸命に声を抑えながら、堪えきれない快感に時折漏れる喉声がまた腹の奥を擽った。 自ら誘っておきながら、きっとそれを多少なりとも後悔しているに違いない。遠くから微かに聞こえる宴会の楽しげな笑い声に、淫らな水音が交じる。あまり音が漏れ出ないようゆるゆると奥を小突くものの、止めどなく滲む蜜が混ざり粘つき、ぐじゅりと淫靡に響いた。 沸き立つ性への欲求を、ただ彼女の身体へと押し込み続けていた。彼女に対してのみ生まれる、支配欲と我欲が渦巻く。 平時常に傍へ置いている彼女に、たった一日足らず手が伸ばせなかっただけで、此処まで肥大するとはまさか思いもしない。慣れぬ事をするものではない。慣れぬ感情にこうして覆われることになる。 湿った息遣いが絶えず狭い路地裏に溢れる。屋外で行為に及ぶなど、まるで理性を持たぬ獣ではないか。我を忘れて何をしているのかと、そう思ったのは今夜何度目か分からない。しかし止めるまでには至らない愚問であった。 「……ぁ、っき、もちい…」 「…其処を誰かが通ったらどうしようか」 「通らない、通らないです」 「分からないよ。誰かが帰ってこない俺たちを探しに来るかも知れないし、酔った誰かが迷い込んで来る可能性だってある」 「っそ、れは…でも…っ…」 彼女の頭上から小声で呟きながら、困惑した彼女が快感と理性の間で揺れる様子を眺めていた。この場が万が一誰かの目に入るような事があれば、間違いなくただでは済まない。視察旅行で、野外で事に及ぶ隊首と副官など不埒千万、立場的にも道徳的にも断じて許される訳のない行為である。 彼女も自ら誘った負い目はあるのだろう。だが、乗った方も乗った方である。罪の重さで言えば同等か、いや彼女以上の比重を浮竹が負うことになろう。 緩やかに抽送を続けながら、困惑する彼女の背に口元を緩める。意地の悪いことをしてしまったか。しかしそれにしては、彼女の中は先程にも増してきつく締まり、熱を増すかのようであった。 何度も細かく繰り返しながら、自在に形を変える彼女の柔らかな肉壷へ己の形を教え込むかのように、しつこく抽送を続ける。今まで幾度も身体を重ね教え込んで来たというのに、それでも未だ飽き足らない。 「ぁ、っもう、わたし…っ」 「ああ…大丈夫だよ」 「い、く……っん…ぅ、っ」 一段と大きく跳ねた彼女の肉壷はまるで搾り取るかのように蠢いた。迸る快感に大きく二度ほど抽送を繰り返した浮竹は、求められるがままその深くへと挿し込み熱を流し込む。 その腰が逃げ出さぬよう、上半身を倒し密着させると彼女の細い身体を掻き抱いた。腕の中でびくりと跳ねながら絞り出すような声を漏らし、その快感の頂へと上り詰める。 ただ愛しい相手の体温を腕に感じながら、燻っていた一日の乾きが満たされたようであった。元はと言えば己の不器用な気遣いが招いたことだというのに、彼女もまるで同罪かのような有様だ。いや、同罪は同罪か。先に手を出したのは、彼女であった。 根元まで咥え込んだ彼女は背をしならせ、突き出した腰をびくびくとわななかせる。未だなお飲み込むように波打つ彼女の身体を味わうように、浮竹はゆるりと腰を揺らし深く息を吐いた。 滾るような熱に包まれ、その最後までを注ぎ終えると腰を引きようやく抜き出した。どちらともない体液がどろりと先端から滴る。開放された彼女は砂利の上へと崩れるように膝を付くと、暫く整えるように肩で息をしていた。 その背を眺めながら、浮竹はぐったり壁へ背を凭れる。 「…悪かった」 「…やめてください、謝ってばかり」 ゆっくりと腰を上げた彼女は、乱れた着衣を直しながら笑う。浴衣をどこか汚してはいやしないかと不安はあるが、細かく確認ができるほどの照度は無い。 まさか最後まで至るつもりは無かったというのに、彼女にたがを外された後はまるで坂を転がるかのようであった。あの欲に濡れた見上げる眼差しは、今思い出しても熱が脈打ちぶり返す。 戻るのか、と帯を締める彼女に尋ねれば、一拍置いて頷いた。やけにその首は抜けて見え、うっすらとうなじには汗が滲み細い髪が張り付く。肌は赤く色づき、声は吐息混じりに艶っぽい。まだ呼吸も整いきっていないというのに、戻るというのか。 今まで隅々まで愛したばかりの身体を、そう間を置かず他の者の目に晒す事がどうにも癪に思えた浮竹は、咄嗟に彼女の手を掴んだ。 「戻らないでくれと言ったら」 「…それは、お願いですか」 「どうだろう。命令かも知れないな」 その言葉にはっと顔を上げた彼女の目は、再びしっとりと濡れていた。彼女もまた、まだ火照りが冷めやらぬのだろう。ならばその未だ冷めぬまま、あの場へ戻ると頷いたは一体何を思っていた。 その答が浮竹を煽ると知っての事か、だとすれば、まんまと彼女の思い通りとなった。血液が勢いよく巡り、どくりどくりと脈打つ。終えたばかりの行為の事など、もう遠い昔のようだった。 満たされたと錯覚した感情が早くも再び乾きを知り、掠れた喉で唾を飲み込みごくりと鳴らす。一度乾いた喉を潤すには、どうやら一杯の酒では足らぬようだった。 ままならぬ君 2022/8/23 （飲み会×屋外×強引 3単語リクエスト）