我慢できなかった話

今日はやけに朝から落ち着かない日だった。特に何か不安な事があるという訳でもない、抱えている仕事があるという訳でもない。仙太郎の怒号が響くことも、清音が駆け込んでくる事も無い。他の日と比べても、平和と分類されるほど長閑な一日だったというのに、どこか悶々としていた。 この胸騒ぎに似た感情には、思い当たる節がある。いや、それに違いない。しかしふとした拍子に思い返すと余計に集中力を欠く気がして、なるべく気を逸らせるよう、手元から書類を絶やさないようにしていた。 お陰でその胸の奥で淀むような感情をぶり返すこと無く、ふと時計を見上げれば終業の時刻を僅かに過ぎていた。鐘が鳴っている事に気づかなかったが、それはこの資料に集中していた為か、それとも、思い返さないよう意識を逸らすことに集中していたからか。結局、腹も減らないから昼を抜いていた。 どちらにしろ、朝の光景が蘇ることなく終業を迎えることが出来たのは幸いだった。自然と一つ息を吐きながら、辺りに散らばっていた紙を纏める。 今日のは休日で、昨晩から屋敷へと訪れていた。彼女が休日の朝は、浮竹よりも早く目覚めあさげの用意をしてくれている事が多い。今日も味噌汁の良い香りで目を覚まし台所を覗いたのだが、何やらそれは、あまり見慣れぬ後ろ姿だった。 普段着の上から身につけている純白のそれは、恐らく袖の無い割烹着のようであったが、ひらひらとした装飾が肩紐につき何やら少女が好むような可愛らしい見た目をしている。丈は長く、着物の裾よりも僅かに短いほどだ。胸当てから伸びる肩紐は背で交差し、これまたひらひらとした印象の腰紐は後ろで蝶結びにされている。 それは一体どうしたのかと聞けば、現世ではエプロンと呼ぶようで、やはり洋風の割烹着の事だった。町で売っていたものを見つけ、その可愛らしい様子を気に入って買ったのだという。 今まで彼女が料理する事は数あれど、わざわざ割烹着を身に着ける事は無かった。珍しいと思うと同時に、菜箸を持ったまま照れたように、どうですか、とその姿を僅かに左右に身体を揺らして見せる彼女の姿に、つい釘付けになった。 何が、という訳ではないのだが、何か言い知れぬ感情が湧き出す事に気づき、いかん、と慌ててそのまま洗面所へ逃げ込むようにして顔を洗った。 余程彼女はそのエプロンを気に入ったのか、その姿のままあさげを共に済まし、玄関への見送りにも身につけたままだった。草鞋を履き、振り返り行ってくるよと声を掛け出るのが通例だが、今日は言葉に詰まった。 いってらっしゃい、と笑う彼女に近づきつい、その唇に触れた。朝から、しかも出勤の前に何をしているのかと頭では理解しつつも、そうせずには居られないほどその姿が愛らしくて仕方がなかったのだ。 自分でも珍しい感情だとは思う。日々彼女を愛しいと思えども、何の前触れ無く触れるような真似はあまりない。彼女も驚いたように目を見開いていたが、やがて身を任せるように舌を伸ばした。だが、そう楽しめるような時間帯でもない。名残惜しく切り上げ、屋敷を出た。 思い返しながらつまり、それが今日一日悶々とする原因であることは明らかだった。ふと蘇ったの姿に、やはり何とも言い難い感情がぶり返す。いかん、と頬を軽く叩くと勢い良く立ち上がり、部屋の灯りを落とした。 夜間勤務との交代を終えた多くの隊士が廊下を行き交う。立ち止まり頭を深く下げる彼らと軽く挨拶を交わしながら、しかし胸中悶々としている事が疚しくて、まるで逃げるように足早に隊舎を後にした。 帰路を進みながら、やはりの事ばかりが頭に浮かぶ。まさか朝のあの出来事がここまで尾を引くことになるとは思わなかった。あの一瞬は名残惜しく家を出ることを躊躇うほどだったが、しかしやがてはその燻る感情も時間が経てば収まるだろうと踏んでいたのだが。 あの姿を気に入ったのはだけでは無かったという事だ。普段着の上に重ねられた、白いひらひらとした布は勿論、台所での調理時に跳ねる汚れから衣服を守るものでしか無い筈なのだが、どうにも心を揺らした。 それがひどく彼女によく似合っていたのだと思う。幼子が気に入った人形を着せ替えて遊ぶような感覚とはこういう事なのだろうと、唐突に合点がいってしまった程だった。 自宅の門扉を開けると、玄関の灯りが見える。飛び石の上を進みながら、朝この石の上を踏みしめながら抱えていた感情がまるで引く様子を見せない事に呆れたくなる。 一つため息を吐きながら引き戸を開けただいま、と呟いた。この時間ともなれば、やはり夕飯の用意をしてくれていたのか、また良い香りが途端に鼻をくすぐる。醤油の少し焦げたような、食欲を唆る香りだ。 式台へ腰を下ろし草鞋を脱いでいると、背後でぱたぱたと足音が聞こえ振り返る。予想しては居たが、やはりその姿が再び目に入るとぎくりとした。今日一日思考の水面下で淀んで仕方がなかった感情がふと浮上する。 「良い匂いだな」 「丁度出来上がって、火を止めた所だったんです。…もう召し上がりますか？」 草鞋を脱ぎ終えた浮竹は立ち上がり、の正面へ歩を進める。彼女の問いかけに答えないまま、その顔を見下ろした。朝と同じエプロンとやらを身に着けた彼女は、目を丸くして見上げている。 きょとんとしているが、しかし少しはこの無言の意味を分かっているのだろう。むしろ、理解して居なければ困る。少し期待したように潤む瞳がもし無自覚だというのならば、由々しき問題である。誰が一体、そんなはしたない娘に育てたのかと。 暫し彼女とそうして見つめ合ったまま、やがて少し腰をかがめ唇を寄せた。はじめは啄むような、遊びのような触れ合いから、徐々に甘く吸い付くように交わる。朝同じように口づけを交わした時にはあまり落ち着いて楽しめなかった分、今は何を気にするでもなく、その温い舌を味わった。 身体を支えるように、腕を軽く掴む彼女の指先に、時折力が籠もる。口づけの合間に甘く喉を鳴らし、眠たそうに目尻は下がった。此処が褥であれば、迷うこと無く彼女の帯へ手を伸ばしただろうが、生憎此処は玄関であると僅かに躊躇った。 頭の隅に残った僅かな理性が此処で止めるべきかと、彼女の濡れた唇をまた啄みながら囁く。だが、それではまた朝と変わらない。仕事を終えようやくこの屋敷に戻り、後はただ夜を過ごすだけだというのに、今再びお預けを食らうのは些か不本意であった。 一日悶々とした思いに耐えたのだから、少しはこの状況に理解を示してくれても良いだろう。と、そのあまりに身勝手な感情は、如実にこの眼差しへと顕れる。 彼女の身体を衣服の上から、ゆるりと撫でるように掌を下ろした。腰から背の方へ回り、臀部へ辿り着くと、裾をたくし上げるように布を指先で手繰り寄せる。途端に、びくりとが身体を固くした。 「った、隊長…！」 「…駄目かい」 「駄目というか、まっ…まってください、ここ玄関ですよ！？」 の言葉に、ふと我に返る。確かに玄関に違いない。それは百も承知であった。柔らかな布団も固いながらも多少弾力を持った長椅子も、座布団すらもない殺風景な板張りの床だ。しかし今は此処が何処であるという事より、ようやく触れたを少しでも手放す事が惜しい。 及び腰になった彼女は逃げ出すようにずるずると後ずさりをするが、それを追うように浮竹は距離を詰める。やがて壁を背にしたは助けを求めるように浮竹を見上げ眉を曲げるが、だが、まさか見す見す逃す筈がない。そう縋るような目を向けられたところで、理性を逆撫でされるだけであった。 「料理が……冷めちゃいますよ…」 「それは、悪いと思ってるよ」 「えっ、ま、まってください……本気ですか、此処で…」 「誂われていた方が良かったかい？」 「い、いや……ええと……」 彼女は困ったように口をすぼめて、僅かに目線を下げた。ぱちぱちと瞬きをする度に、睫毛が揺れる。彼女へ向ける眼差しが、どれほど熱を持ったものであるのかと、その程度の自覚はしている。彼女だってそれを理解しながら、だがこの場所で事に及ぶその後ろめたさに言い訳をしようとしているのだろう。 自分が求めたのではなく、求められたから応えただけなのだと。そうしどろもどろになりながら、しかし内心本気で逃げ出そうとは思っていない筈だ。今まで何度も抜け出せる瞬間はあった。 事実、俯く彼女の名前を呼び、ゆっくりと顔を上げた唇を再び塞げば素直に受け入れるのだから、そのあまりに従順な様子に安易にぐらりと脳を揺らされるようだった。再び彼女の背を支えていた掌を、腰、そして腿へ撫でるように下ろす。布の上から、その体温を感じる。 帯は解かないまま、その裾をするすると指で手繰り寄せ、ある程度まで布が弛むとその下へと掌を忍び込ませた。その皮膚は、案外ひやりとした。しかし、その下に熱を湛えていると分かる。 肌の跳ね返りを楽しむように腿、そして臀部の膨らみを軽く掴むように力を込めれば、柔く指が沈む。果実よりも冷静な熱を持った滑らかな感触を味わいながら、重ねた唇をやっと離すと、物欲しげに潤む瞳がじっとりと見上げた。 「…どうされたんですか、急に」 「急という訳でも無いよ。朝からお預けを食らっていたんだ」 「それは、私も同じでしたけど……だとしても、玄関は…」 はもごもごとそう言うが、浮竹は少し笑って、答えないまま彼女の肩に軽く手を添え、背を向けるよう促す。あからさまに動揺した様子へゆったりと瞬きで答えると、羞恥を飲み込むように息を止めた。 彼女がどうしてもと言うのならば、今から抱えて畳の上へ移動する事など実際大した手間では無い。だが、そういう訳でもないだろう。この場所は気が引けるのだと、戸惑った言葉を口にする割に、拒否する姿勢はまるで感じない。むしろ少しは興味があるかのような目の色をしている、ように見える。 肌の色が似合わないこの玄関で、彼女は浮竹に無言で促されるがまま、捲れた裾が落ちないよう自ずと掴み、おずおずと背を向けた。薄藍色の後身頃を自ら大きく腰まで捲り上げ、生白い腿と尻を顕にする。 腰で結ばれていたエプロンの紐が、僅かに解け柔らかな臀部の双丘に乗る。その紐を指先で掴み、つつと引くと緩んでいた蝶結びが解けた。肩紐はずり落ち、裾ほども有る長い前掛けはだらりと弛んで垂れた。 清楚に愛らしく彼女を着飾っていたものが、今はだらしなく乱れ、欲情を煽るだけの白い布と成り果てている。彼女からしてみれば、そんなつもりで身につけていた訳では無いだろうが、どういう訳か唆られた。 壁に片手を付いた彼女は、赤らんだ顔を僅かに振り向かせその腰を僅かに突き出す。隊長、とその行き場のない羞恥を吐き出すように呟き、まるで先を促すような様子にひとつ唾を飲み込んだ。 「し、…しないん…ですか」 「いや、悪い…そのエプロンとやらが、良く似合ってると思った」 「っえ、い…今ですか…！？…そんなの…朝言ってほしかったです…」 ああ、そういえばまだ一言もそう伝えてなかったのだったか。彼女がその新品のエプロンを見せびらかすようにした様子に、気の利いた感想の一言も伝えず、湧き出した妙な感情に動揺して洗面所へ逃げてしまった光景を思い返す。 悪かった、と一言謝ってもまだ口を尖らせ拗ねたようにする彼女に擦り寄り、下着に指を掛け腿まで下ろす。一瞬、ぐっと力を込めたようだったが、その白い肌をゆるりと撫ぜればその表情と共に緩んだ。 浮竹は逸る気を押さえ、自身の袴の前紐を緩めそのまま床の上へと落とす。既に下着の中で期待に膨らんだそれを取り出した。何度か、根元から鈴口へ向けて指先で扱きその熱を確かめる。 「っぁ…ま、って…」 まだ触れても居ないが、近づく熱には怯えたような声を出す。壁に手を付き、僅かに振り返った彼女は、ちらとその様子を目に入れるとごくりとその喉を鳴らす。 彼女がじっと視線を向ける中、先端が彼女の十分に潤ったそこへ触れると、膝を突っ張り、突き出した腰をびくりと揺らした。柔らかなその双丘を撫で、ゆっくりと腰を彼女へと進める。堪らず彼女は顔を正面へ戻し壁に頬を擦るように預けた。びくびくと震えながらその侵入を許す彼女の中は、熱く柔く出迎える。 雄芯を包む彼女は淫らに咥えて離さず、その奥へ進む程きつく絡みつくようだった。そのまま抽送をせずとも、導かれるような心地よさに委ねたくなるがしかし、身体というものは貪欲なもので、自然と律動を刻みはじめる。 擦れ合う度、甘く鳴く彼女の姿を見下ろしながら、ようやく満たされ始めた欲に思わず満足気に口元が緩む。可愛らしい装飾のついた純白のエプロンを身に着け、鍋を煮立たせながら今か今かと帰りを待ち侘びてくれていたに違いない。だが、まさか帰宅早々にこの有様とは思っても居なかった事だろう。 自分とてそうだ、まさか玄関で事に及ぶほど欲を持て余していた自覚など無い。自覚はないが、事実、持て余していたのだろう。朝から燻る熱を、腹の奥に湛えていた。 彼女の腰を支えながら、軽く打ち付けると、中へ埋まる雄芯が丁度良い具合に彼女のざらりとした部分と擦れ、吐息が漏れるほどに心地よい。彼女もそれは感じているのか、凹凸が引っかかる度腰を震わせ壁を引っ掻くように掌が滑った。 「っん、あ…っ…なんか、だめです…」 「…辛いなら、態勢を変えようか」 「あぁ…いえ、違うんです…ただ、っ、お、奥が…っ…」 苦しげに声を詰まらせる彼女は、首を横に振り肩を震わせる。ぎゅうと収縮する肉壁に包まれながら繰り返す律動は、どちらともない体液の混ざり合う淫らな音を伴って刻まれる。彼女の腰を支え、具合の良いように抽送を繰り返せば、いたずらに性欲は満たされ導かれるばかりだった。 こんな場所で、必死に何をしているのかと時折頭の隅で我に返る。本来ならば夕飯も終え風呂も終えた後に寝室で及ぼう話だ。彼女への身体の負担を考えても、そうしてやるべきなのだろうが、しかし現に二人してこの状況を案外悪くないと感じている。 彼女の中は熱くうねり、蜜を垂らして迎え入れ、浮竹もまたその芯を硬くしての深い場所へと何度も触れる。衣服も満足に脱がないまま、獣のような態勢で交わるこの状況に、強く揺さぶられている事には違いなかった。 必死に浮竹を受け入れるばかりのは、その背を向けたまま壁を引っ掻き膝を震わせた。はじめはちらちらと振り返る素振りも見せていたが、今はもうその余裕すら失われたのだろう。掠れた声を漏らしながら、はびくびくと白い肌を揺らす。いく、と絞り出すようにひとつ零すと、深く咥えこんだまま二、三度大きく収縮を繰り返した。 弛緩した瞬間、浮竹はずるりと彼女の体内から抜き出す。途端に、崩れ落ちるようには床に膝をつき、そのまま大きく息を繰り返した。同じように浮竹も腰を屈め、心配そうに彼女の顔を覗き込む。 「…す、すみません…隊長が、まだなのに…」 「良いんだ、が好かったなら」 浮竹がそう答えると彼女は僅かに微笑み、もぞもぞとその身体の正面を向ける。帰宅時には小綺麗に身につけられていた衣服とエプロンが今はひどく乱れ、向かい合ったまま、頬を染め見上げる視線にまた背筋が舐められるような感覚が走る。 壁に僅かにもたれるようにしたは、膝を僅かに広げ、あの、とその小さく開いた唇から零した。白いエプロンの裾をは僅かに指先で手繰り寄せると、蜜に濡れたその薄い茂みが顕になる。 物欲しげに、まるで縋るような目で見上げる彼女を見下ろしながら、が好かったなら、などとつい先程すかして答えた事を後悔するほどの劣情をまざまざと感じる。誘う眼差しにいとも簡単に僅かな理性を蹴散らされ、乾いた唇を舌で舐めた。 細く息を吐き出しながら彼女へと身体を寄せ、その大きく開いた股ぐらへ、また一つ熱を増した先端を宛てがう。その入口に屹立したそれを突き立てれば、淫らな花弁がその突端を柔らかく包んだ。 「っん、…ぁ、やっぱり…」 「…やっぱり？」 「は、っ…こっちのほうが、すきかも、と…思って…」 ゆっくりと彼女の身体へと沈めながら、そうかい、と笑う。後ろから無遠慮に貫かれるよりも、互いに顔を突き合わせてゆるゆると交わらせる方が彼女は好みなのだろう。腿をひくつかせながら、は甘く声を零し続ける。 纏わり付くような体温と、絡みつく心地よさに身を任せ、その細い身体へと捩じ込む。味わうように、柔らかな吸い付くような肌と肌を合わせながら、鈍い締付けによって吐精感を導かれた。 彼女が好きだと言う意味も良く分かる。彼女の背を見下ろしながら支配欲を満たされる行為も悪くないが、その表情の緩みや強張りを見つめながら、徐々に崩れてゆく理性が手に取るように分かる愛おしさというものは、何にも代え難い。 細かく声を漏らすの身体は大きく蠢き、ぎゅうと締め付け咥え込む。潤んだ瞳で見上げた彼女の小さく開いた口から、掠れた声で縋るように呼ばれれば、どくりと熱が脈打った。すんでの所でせき止めながら、、と小さく呼ぶ。 「……、…良いか」 「ぁっ…はい、…な、なかで…」 うわ言のようにせがむを眼下に、細かく腰を打ち付け吐精を導いた。彼女の望み通り、いや、もとよりそのつもりであったが、深く身体を沈めたまま白濁が込み上げた。大きく左右に開いた腿を支えながら押し込み、朝から淀んでいたその欲をようやく吐き出す心地よさに、吐息を零し腰を震わせる。 どくりと脈打ち、その先端から流れ出したであろう子種の全てを、彼女の奥深くへと収めた。柔らかく包まれたまま己の体温を流し込む快感は、何度味わった所で言い得ぬ、何にも代え難いものだった。愛しい相手をまるで全て手に入れたかのような、浅はかな支配欲を満たされる。それも毎回、飽きもせず。 恍惚したように震える彼女は、俯いたまま満足げに微笑み頬を染める。徐々に頭から引いてゆく熱と共に、この状況の異様さを俯瞰し息を潜めた。玄関の引き戸を空けて直ぐ、土間から上がったばかりのこの板張りの上で乱れた彼女を組み敷くこの光景が、まさか通常であるはずはない。 ようやく呼吸の整った彼女は、ぐったりもたれた壁から身体を起こす。途端にずるりと繋がりの外れた彼女の秘部から、溢れるように濁った汁が垂れた。その満足気に緩む表情と不釣り合いな様子に、咄嗟に言葉が詰まる。 「…お夕飯にしないとですね」 夕飯とはまるで縁遠い様子の彼女は、そう言って照れたように笑う。帰宅した時には玄関まで良い香りが漂っていた筈が、今はむせ返るような人のにおいで満たされていた。それは勿論、時間の経過だけが理由ではない。 彼女のずれ落ちたエプロンの白い肩紐を直してやりながら、いま丁度、朝ぶりに腹が鳴ったところであった。 --- エプロンに欲情してしまう様子が書きたかったです 2021/10/23