露天獄

50音企画

露天獄

 

 休日に瀞霊廷を歩いていれば、同じように休日の様子の吉良に声を掛けられた。休日なのに外に出てるなんて珍しいと言えば吉良は僅かに不本意そうに眉を曲げる。
 どうしたのかと聞いてみれば、これから珍しく同期の阿散井、雛森と昼から飲むつもりなのだと言う。一緒にどうかと誘われたが、同期水入らずの中に邪魔をするのもどうかと思い断った。のだが、結局途中で合流してしまった阿散井と雛森によって店へ強引に連行されることとなった。

「檜佐木さんって、日南田さんと同期っすよね」
「あ?ああ…」

 会話は至って真面目に副隊長の悲喜こもごもが中心で、他隊の様子を伺いつつ檜佐木自身も気づけば楽しんでいた。昼間だというのに酒も進み、そこそこ出来上がり始めた所で不意に日南田の話を出され、檜佐木は自然と背筋を伸ばす。
 阿散井は辺りを僅かに見回すような様子の後、こそこそとしたような様子で顔を寄せた。

日南田さんって浮竹隊長とデキてるんすか?」
「……は?」
「私達の中で最近話題なんですよ、良い仲なんじゃないかって」
「檜佐木さん、日南田さんと同期ですしご存知かと思って」

 どうなんだと三人から畳み掛けるように問い詰められ、檜佐木は思わず仰け反りそうになる。そんな話知らない、聞いたこともないし思ったこともない。何が切欠なのかと恐る恐る聞いてみれば、特に理由はなく二人の様子なのだと雛森が語り始める。

「私分かるんですよ、あの雰囲気絶対普通の関係じゃないです」
「いや、普通だろ…そんな事言ったら雛森お前だって藍染隊長と良い仲って事になるぞ」
「違いますよ!私は敬愛です!でも日南田さんのは、何ていうか…違うよね、吉良君」
「そうなんですよ、檜佐木さん。僕も雛森君に言われて見てみれば、確かに浮竹隊長へ向ける視線が普通と違う」
「いやいや、待て待て。お前ら何言ってるか分かってるのか?」

 丁度良い気分で酔ってきてたというのに、一気に両頬を引っ叩かれたかのような衝撃だ。確かに日南田は昔から、浮竹へ敬愛の念をよく口にしていた。だがそれは非常に純粋なもので、そこに疚しい思いを檜佐木は一度として感じたことはなかった。
 隊長副隊長が異性同士の組み合わせというのは、まあ話の種にされやすい。隊士同士の飲みの席でどうのこうのと話されることは少なくはないが、だが実際に同期である日南田の話を出されるとなるとあまり良い気分ではない。敬愛する隊長の横へ立つ為と、血の滲むような努力を続けていた彼女にそんな噂を立てるとは無礼千万だろう。

「俺が知りてえのは、ヤッてんのかヤッて無いのかって話っすよ」
「阿散井お前、何言ってんだ?」
「阿散井君、ヤッてるに決まってるだろう。浮竹隊長が幾つだと思ってるんだ」
「お前ら酔いすぎだ、いい加減にしろ!」

 思わず耳を塞ぎたくなる。同期のあられもない姿が意図せず頭に一瞬浮かんだ事を猛烈に後悔しながら、酒の匂いを垂れ流し赤い顔をした三名へ順番に冷水を掛けてやりたい衝動を必死に抑える。

日南田は浮竹隊長の事心から尊敬してんだ、そんな関係な訳ねえよ」
「そうなんですか?私の勘、間違ってないと思うんですけど…」
「いや、無い。大体、日南田は昔からあんまり男に興味無さそうだしな」
「そうなんすか?つまんないっすねえ…」

 つまらないとか言うな、と険しい顔で檜佐木は呟く。今日はこの場に来たことを一瞬でも後悔したが、だが今はむしろこの場に居てよかったとすら思う。こうして根も葉もない噂を広がる前に潰す事がきっと自分の使命だったのだろうと檜佐木は一つ酒を煽る。
 日南田を誰より知っているのは同期の自分より他に居ない。つまんねえ、だのえー、だの何だのと不満たらたらの三人を前に、檜佐木は一人鼻を鳴らした。

(付き合ってるかどうか噂をされる/頂いたおだいばこより)