訳あって技術開発局に頼る話-3

耳を塞ぎたくなるような音と、目を覆いたくなるような光景が眼下に広がっている。身体が心配だからと言う浮竹に抱いて欲しいと望んだのはだったが、しかしここまでの状況に陥ることになろうとは思っても居なかった。 普段通り、何の変哲もない夜になる筈だと思っていた。彼の中で何が渦巻いていたのかは知らないが、の下着を剥いだ後おもむろに股ぐらへと顔を寄せる姿に息を止めた。鼻息がふっとその湿った中心へとかかり、咄嗟に身を捩り逃げ出そうとしたが力で敵うはずがない。 止めてくれと伝えた言葉が素直に口から出たのは、その行為を望んだことは一度としてなかったからだ。幾度となく身体を重ねてはいたが、口淫に関しては決して望まなかった。たとい暗がりであっても恥ずかしいというのも有るが、何よりもいくら恋人とはいえ上官である彼に不浄とも言える部分を奉仕させるような真似は許されるものでない。 そう震える声で伝えたにも関わらず、彼は行灯の灯りを鈍く瞳で光らせながらそっと唇を寄せた。悲鳴に似たような声が出たのは言うまでもない。薄い茂みを指先で僅かに掻き分け何か生ぬるいものが触れると、身体が自分のものでないようにびくりと跳ねた。 得体の知れない何かが這うような感覚に、息を漏らしながら後ずさろうと力を込める。それが舌だと知りながらも、初めて味わう異様な心地にあまりまともに力が入らず、手のひらは敷布の上をただ滑っただけだった。 羞恥の為に顔には血が昇り、せめて腿を閉じようと力を込めるが難なく防がれる。だめだと声を上げたいが、今口に出せば恐らく真反対の言葉が零れるに違いない。必死で唇を噛みながら、腿を震わせるだけだった。 「き、汚いです」 何とか絞り出した言葉に浮竹は一度視線だけを上げたが、何も答えずまた伏せた。舌先は最も敏感に腫れる部分を何度も捲り上げるように擦る。引きずり込まれるような快楽に荒く息を繰り返しながら、漏れ出る声は掠れた。 生ぬるくねっとりと這う舌は、勝手知りたるように隅々まで触れる。時折唇は軽く吸い上げながら、蜜の漏れる場所へと舌はねじ込むように伸びた。内側から溶かされるようだった。指先でも彼自身でも覚えたことのないその感覚はまともな思考を容易く崩す。 はじめは羞恥で気がどうにかなるかと思った程だったが、断続的に与えられる柔らかな刺激にやがては声を押し殺しながら身を任せていた。時折掛かる熱い吐息に濡れた花弁はひくりと震えて蜜を垂らす。舌先は赤く腫れ上がった蕾へと伸び、弾くように往復を繰り返した後に唇に包まれた。 びくりと腰が跳ねて身体を仰け反る。唇の甘噛に追い打ちをかけられるように頭を白ませながら、だらしなく足を広げて震えていた。大きく息を繰り返していると、ようやく顔を上げ身体を起こした浮竹が乱れた前髪を直しながらを見下ろす。 「他に誰も居ないんだ、声を我慢する必要も無い」 「それは、そうなんですけど…」 「今夜は嘘を吐けないからか」 そう言葉をかけられ、はすっと目線を外す。技術開発局製の薬の副作用で嘘が吐けなくなったと気付いたのはこの行為にもつれ込む少し前の事だ。日頃から嘘を吐いているという訳ではない。ただ、行為中というのはどうにも天の邪鬼になるというもので、いくら良くても駄目だと言うのが最早様式美とも言える。 だがこの状況ではそうはならない。言葉が本心から飛び出す状況で、悦楽に緩んだ頭で一体何を口走るか分からず自然と声を我慢していた。必死に唇を噛み、場合によっては手で口を抑えるような状況を見てまさか気付かないはずがないだろう。 何を言われるかと彼の言葉を待っていれば、ひたりと指先がまだ甘い痺れの残る場所に触れ慌てて視線を彼へと向ける。相変わらず優しく見下ろす表情のまま、二本の指先は花弁を割り入り込みゆっくりと肉壁を擦る。 舌先では届かなかった部分を撫でるように動く指先に、再び官能が刺激され背筋をぞくぞくとさせる。鈍く迫る心地の良い圧迫に、漏れ出る声を押し込めはまた唇を噛んだ。その瞬間、指先の動きがぴたりと止まる。 「…た…隊長」 「どうして声を我慢をしようとするんだ」 「…それは、その…恥ずかしいから…」 「それなら、此処で終わりにしようか」 思っても居なかった意地悪な言葉に、はその視線を彼へと向けた。の言葉を待つように見下ろす浮竹は、中ほどまで埋めていた指を抜き出し入り口のあたりを遊ぶように往復させる。 あの柔く引っかかれる心地が忘れられず、は瞳を揺らした。指先はもどかしく、きっとから強請る言葉を引きずり出そうと焦らすように動く。つい先程までは一度味わった快感の頂きに、満足そうに緩んでいたはずが今はまた体内への刺激を求めてひくひくと震えた。 蜜を纏わせくちゅりと音を立てる恥部に、とうとうは縋るように口を開く。 「我慢、しませんから…隊長」 「我慢しないから、どうして欲しいんだ」 「どうって…だから、つまり…つづきを…したいです」 顔がまた火照ってゆくのが分かる。視線を外しながらそう言えば、一つの深い呼吸と共に指先が身体の中へと再び埋まる。再開された柔く掻き出す動きに身を捩った。ゆっくりと身体を倒した浮竹は、だらしなく開いたままだったの唇へと重ねる。 つい先程まで秘部を弄っていたそれが、今は唇を這い舌に絡まる状況が淫靡に思え、余計に気が昂ぶった。上がる心拍と乱れる呼吸の間で声を上げながら、崩れた彼の襟をぎゅうと掴む。 「っぁ…き、もち、いっ…」 腰を揺らしながら漏れる言葉に、彼は口元を緩める。啄むように唇を時折触れ合わせながら、指先はの良く反応する部分を繰り返し摩擦する。良い場所に当たり苦しげに言葉を漏らせば、律儀にも彼はその場所をしつこいほど丁寧に撫でた。 何時もであれば、だめだと恥じらいながら首を横に振っていただろう。だがそうして嫌だ止めてと言った所で彼はその手を緩めようとはしないし、むしろ増長する事すらあった。無論それは本心でなく、褥での戯言のようなものであると理解していた上での行為だ。 恥じらう姿というものは、男の欲情を殊更煽るものなのだと松本から聞かされた覚えがある。恐らくそれは彼においても当てはまるのだろうと、今まで繰り返した行為の中でそれは確信に近いものとなっていた。 しかし今この嘘を吐けない状況で下手に言葉を零せば、そこが良いだのもっと欲しいだのと言いかねない。貪欲に快感を求める姿に幻滅される事だけは避けたかった。 しかし一度口に出してしまえば、あとは底に穴の空いた湯呑と同じで止めようとしても自然と口をついて出る。もっとと好がり、意図に反して口から零れ続ける言葉を、はただその小さく開いた唇から垂れ流し続けるしかなかった。 埋まった指先をくの字に曲げ、掻き出すように圧迫する。小水の漏れるような嫌な感覚に思わず膝を閉じたが、間もなく訪れた大きく跳ねるような快感にびくびくと身体を震わせた。埋まる指を押し出すように肉壁が膨張し、何度も波打つ。 「…っは…あ…」 「随分夢中になっていたようだね」 「…夢中になってたのは、隊長の方ではないですか」 「まあ、それは…違いない」 そう笑う浮竹に、は大きく呼吸を繰り返しながら恨めしげに視線を向ける。そうぽつぽつと言葉を交わしながらも、彼はその帯をゆっくりと解き布団の脇へと避ける。の足の間へと膝を擦って近づくと、彼の中心で主張するその姿が暗がりでも目に入り思わず唾を飲み込む。 何度か擦るように這わせた指先を上下させた後、まだ鈍い痺れの残る蜜壺へと先端を宛てがった。熱を持ち、硬く起ち上がったそれはの漏らす蜜を纏いながら往復した。先への期待と、焦れる快感に吐息を零しながらゆらりと腰を揺らす。 「……隊長、焦らさないで下さい」 「焦らしているつもりじゃないが、そう感じたかい」 「それは、何と言いますか…狡い返しではないですか」 そうか、ととぼけたような様子には小さく鼻息を吐く。ぬるりと未だ表面を滑っていたそれは時折僅かに花弁を割り入る様子を見せたが、またすぐに抜き出され同じように入り口あたりで遊ぶ。 もどかしい感覚に自然と頬は上気し、瞳は潤んだ。細かく呼吸を繰り返すを浮竹はじっとりと見下ろすと、その身体を倒し鼻先へと軽く唇を落とす。 「っも、もう…私…」 「…どうしたい」 鼻先でそう囁く浮竹に、はうわ言のように答える。いれてください、と自然と口から出たはしたない言葉に逆上せた頭は更に熱を持つようだった。何を口走っているのかと思うものの、しかしそう強請る言葉は心地よく耳に響いた。どこか満足そうに見えるその口元の歪みを見ながら、結局その言葉を言わせたかったのだろうかと思う。 ゆっくりと身体を割って入る彼の熱に、白い身体を仰け反り震わせる。頬に掛かる彼の長い髪を退けるような余裕もなく、体の内側を押し広げる異物感があろうことか心地よく奥へと押し込まれる程に蜜が湧いて出た。 粘つくような音を立てながら、互いの粘液を擦り合わせる。混じり合い、溶け合うような感覚に恍惚しながら深く求めるようにその腰へと足を絡ませる。ひやりとする肌の心地と、逆上せるような熱い体内との温度差にぞくりと肌が粟立った。 ずるずると繰り返す挿入は、徐々に抉るような動きを伴う。始めのまだ探るような様子は影を潜め、彼自身も導かれるような快楽を得る為深く大きく律動を続けた。奥を穿たれる度に身体の中はきゅうと切なく疼き、汗を滲ませ苦しげに喉を鳴らす彼をぼやけた視界で見上げた。 「ッん、は…きもち、い」 「それは、普段と比べてか」 「…い、いえ、…いつもと同じくらい」 「そうか。いや…ほら、いつもあまり言わないだろう。気持ちが良いとか、どうとか」 ああ、とは彼の問いの意図を理解して笑う。普段の行為で良いとかどうとか時折漏らすことはあっても、今しがたのように頻繁に声を上げる事は今までに恐らく無かった。今日ばかりが特別でない事を確かめたかったのだろう。 彼は一つ深く息を吐くと、ずるりと埋まった異物を抜き出しの隣へと身体を横たえる。半身を軽く起こした彼はの首元に唇を寄せながら、まだ袖に残った寝間着を徐々に剥いだ。一糸まとわぬ姿となれば、今更恥じらうように腿を閉じる。 彼はその滑らかな肌を撫でる事を止めないまま、もう一方の手での身体を軽く転がすように力を掛けた。促されるがままに寝返りをうち彼へ背を向けると、その背にぴたりと彼の肌が張り付く。背後から包まれるように腹のあたりへ腕を回されれば触れ合う肌の面が増え温もりが実に心地良かった。 、と背後から耳元へ囁かれ思わずぞくりと震える。熱い吐息を感じていれば、腹から腿へと下りる手のひらは固く閉じた足の間へと滑った。柔らかな肉体へと沈む指先がゆっくりと撫でながら移動すると力は緩み、腿を上げればまだ満たされていない花弁が口を開く。 ひくりと震えたその場所へ見に覚えのある熱が触れ、あ、と声を漏らす。背後から探るように何度か擦った後、その入口を見つけて入り込む。互いに正面を向いて重なるよりも異物感の強いこの体勢に、喉の奥から声が漏れた。 「ん、っあ…これ、…わたし…」 「…好きなんじゃないか」 「す、きです…、っ…は…」 ふ、と微笑むよう軽い鼻息が耳元に聞こえる。彼の言う通り、この体勢が決して嫌いではなかった。包まれるような安心感の中無遠慮に抉られる感覚が実に不釣り合いで、背徳感を擽る。 背後から突き上げられながら徐々に満たされてゆく肉欲に時折声を詰まらせた。彼の表情は確認ができず、ただ荒く繰り返される息と時折首筋に吸い付く唇が徐々に高まる彼の興奮の度合いを知らせる。ひたりと張り付く肌には汗が滲み、交わる事を繰り返す雌と雄の間からははしたない水音が増長していた。 身体の中でびくりと彼の熱が蠢く。その呼吸の浅い様子から、もう限界が近いのだろうという事は分かった。この瞬間の切なく歪む表情が好きだったが、この体勢では叶わない。身体へ強く巻き付く腕と、細かく突き上げる腰の揺れに辛うじて残っていた理性を飛ばされ掠れた声を上げる。 弓なりになる身体を彼に抱きしめられたまま吐精を受け止める。体内でびくびくと震えながら吐き出される精に、恍惚したように白い首を仰け反らせた。 「不眠は平気なのか」 「…ああ、はい。先程から眠気が…薬のせいかは分かりませんが」 「それなら良かったよ。良く眠りなさい」 軽く後始末を終えた後、順当に訪れた眠気は久方ぶりのように思えた。果たしてこの眠気が薬の本作用であるのか、はたまた今しがたの行為の疲れから来るものであるのかは分からない。 しかし、押し寄せる波のような睡魔がただ心地よいものだった。その柔らかな体温と、彼の微笑みを最後に瞼を閉じると、泥のような眠りの中へゆっくりと沈み込んだ。 涅ネムが菓子折りを持って十三番隊へ現れたのはおよそ五日後のことだった。どうやら先日渡された睡眠改善薬について、中身を取り違えたものを渡してしまったと彼女は深く頭を下げた。 それは所謂、真実薬というもので、飲んだ者は忽ち嘘を吐けず真実のみを口にするようになる代物だという。その作用に大いに心当たりのあっただったが、しかしおかしい。彼女によれば全くの取り違えだった為、睡眠改善の効能はまるで無いのだという。 あの日以来驚くほど睡眠の質は改善され、深く眠りにつくようになっていた。薬を飲んだのはあの一夜のみだったが、翌日からも良く眠れた上に寝覚めも実に良く、技術開発局の技術力には感心していたものだった。 しかしその状況にまるで薬は関係無いと彼女は言い切る。嘘を吐いているようには思えない。それならばどうして、と詰め寄ったところで彼女は無表情のまま、ただ菓子折りを差し出し頭を下げるだけだった。 2021/03/09