訳あって一部猫になってしまった話

女性死神協会から帰って来るはずのが、そのまま急遽早退になったと清音からの報告があった。共に出席していた清音に何かあったのか尋ねたが、具合が悪いみたいで、と歯切れの悪い回答をしたかと思えばそのまま逃げるように消えていった。 午前中の彼女は顔色も良く、急遽倒れるような様子には見えなかった。最近はあまり残業もなく上がれていたし、睡眠も十分に取れているはずだ。何か急病ともなれば心配だ。 寮で休んでいると清音は言っていたが、場合によっては詳細な検査が必要やもしれない。曲がりなりにも治癒術を知る身としては、彼女の状態を診る程度であれば造作ない。 まだ多少確認書類は残るが、明日の自分に託し定時の鐘で浮竹は仕事を切り上げた。部屋の灯りを落とすと庭から屋根へと飛び乗る。 女子寮へは男性が正規の侵入をする事が出来ない。一隊長が女子寮に侵入するなど決して褒められた事ではないが、呼び出すことも出来ない現状他に方法は無いだろう。 帰宅する姿が増え始める道を眺めながら、急ぎ女子寮へと向かう。この波が到達する前に辿り着かなくてはならない。廊下で一目見られれば今まで築き上げた全てが失われる可能性がある。 辺りをよく見回しながら女子寮の屋根へと移る。久しぶりの瞬歩が女子寮への侵入の為となるとはまさか思うまい。の部屋には以前一度訪れた事があり、場所は把握していた。 の部屋からほど近い庭へと降り立つと、幸いにもまだ帰宅の者は辿り着いていないようでひっそりとしていた。草鞋を脱ぎ土を払うと手にしたまま彼女の部屋の前で声を掛けた。 名前を呼ぶと、中で慌てたような彼女の悲鳴が響く。 「具合が悪いと言うから、様子を見に来た」 「へ、平気ですからお帰り下さい！」 「どうしたんだ、…」 襖の向こうのはやけに強い口調で浮竹を拒む。よっぽど具合が悪い事を悟られたくないのだろうか。彼女の事だから心配させまいとしているに違いない。かと言って、やはり許可がないまま無理に部屋へ入るのは流石に憚られる。 暫く部屋の中と外で押し問答を繰り返していたが、彼女は変わらず強い口調で折れそうにない。 「心配だ、顔だけでも見せてくれないか」 「その…化粧落としたので嫌です」 「今更何を言ってるんだ…散々見てるだろう」 「だめなものはだめです、お帰り下さい」 珍しく強硬な様子に、浮竹は溜息をつく。彼女がそこまで言うならば今日は諦めて帰るしか無い。平気だというのだから、その言葉を信じるしか無い。確かに声には張りがあるし、顔さえ出せないという点が気になりはするが仕方ない。 渋々襖の前で別れを告げ振り返ったその時、廊下の向こう側から声が聞こえた。さっと冷や汗が出る。女子隊士が二人で歓談する姿が突き当りの角から現れ、浮竹は慌てての部屋の襖に手を掛け開いた。薄暗い部屋へ身体を押し込み襖を閉める。 「…悪い、今丁度人が現れたから…」 入った途端に彼女の香りで包まれる。身体を寄せた時、ふわりと香る妙に鼻をくすぐる甘いそれだ。 彼女の返答はなく、代わりに部屋の隅で布団に包まる何かがもぞもぞと動く。名前を呼ぶが変わらず何の返答もない妙な様子に、浮竹はその塊へと抜き足で近づく。 何やらすんすんと鼻をすする音が聞こえる。泣いているのか、と小さく声をかけるが彼女は答えない。包まる彼女の傍で腰をかがめ、布団に手をかける。静かに剥ぐと、思ってもない姿に浮竹は目を丸くした。 「…、どうした」 「……砕蜂隊長にやられました」 消沈した様子の彼女の傍に、浮竹は腰を下ろして向かい合う。涙を一つ零したの頭を撫でると、猫のような耳がしゅんと横に垂れた。 話を聞けば、女性死神協会の定例会議で砕蜂の持ち込み企画の発表が行われたらしい。忙しない毎日の疲れから開放されるため、という名目で涅ネムと共同開発をした「猫化する薬」の試薬を飲まされたのだと言う。 見事に不完全だったその試薬はの頭上に猫の耳と、尻には尻尾が生えただけで他には何の変化も起こらなかった。この状態がいつまで続くかも分からず、取り敢えずは共に参加していた清音が気を利かせて早退にしたようだが、やはり不安で仕方ないのだろう。 道理で帰れと連呼していた訳だ。あまり他人にその姿を見せたくは無いだろう。 「何で私がこんな目に…」 「明日も休んで良い。戻らないようなら涅隊長に掛け合うから、手紙を寄越しなさい」 「すみません…」 しゅんとまた垂れた耳に目を奪われる。ただの飾りではなく、彼女の感情としっかりと連動しているようだ。寝間着の裾から出るふわふわとした尻尾も力なく床に伸びているが、頭を撫でると揺れる。 「……隊長」 「ん？」 「耳を触らないで下さい……」 「あ…ああ、悪い……つい」 自然とそのふわり三毛柄の体毛が生えた耳に指先が伸びた。元気無く視線を落とすの身体に手を回し、浮竹は抱き寄せる。胸に顔を寄せたは、安心したのかその力を抜いた。 その背を撫でながら、他に何も手立てがない無力さを申し訳ないと思う。試薬というくらいだから永久的な効果は無いように思うのだが、技術開発局と聞くと果たして分からない。 砕蜂が猫に固執しているのは知っているが、まさか自身までも猫の姿にでもするつもりか。「忙しない毎日の疲れから開放されるため」なんて尤もらしい事を並べているが疚しい理由しかなさそうなものだ。 彼女を膝に乗せながら、部屋をぐるりと見回す。以前訪れた時はあまりまじまじと眺めた訳でも無かった為、実質初めて入ったようなものだ。 あまり広いと言えない部屋は全体的に小綺麗にされているが、唯一隅の文机の周辺だけはうず高く書籍が積もっている。副隊長ともなればとっくに寮から出て多少良い居を構える事だって出来るだろうに、あまり住居への興味がないのだろう。 暫く見回していれば、に襟を引かれて視線を彼女へと落とす。 「もう少し居て下さいませんか」 「構わないよ。…不安かい」 「はい、…このまま、身体に毛でも生えてきたらどうしようかと思って…」 「それは困るな…死覇装に猫の毛は目立つ」 「冗談に聞こえませんよ」 細い声で嘆くは不安そうに眉を曲げる。その様子を哀れんで居るのは確かだったが、しかし共に妙な感情が奥に燻る。耳を倒し、畳に投げ出した尻尾は時折ふわりと揺れる。 その感情が恐らく疚しいものである事は分かっている。腕の中で不安そうにしている彼女の身体に多少なりとも興味があった。心苦しいが、しかし彼女の身体の熱を感じる程にそれは増してゆく。 背を撫でると余程安心するのか、身体を預けて微かな呼吸を繰り返す。後頭部から首、背そして尻尾の付け根の辺りまでゆっくりと撫で下ろすと、ぴく、と微かに身体が跳ねた。 「っあ…た、隊長」 「…どうした」 色めき立ったような声音に、浮竹は背を撫でていた手を止める。上がる心拍を呼吸で誤魔化しながらその顔を覗き込むと、やけに切羽詰まった様子で目を潤ませていた。 「…そこ、撫でないで下さい」 「…此処か」 「あ、っ…ま、待ってください…」 妙な反応に、浮竹は息を潜める。丁度腰のあたりを撫でる時、はその身体を固くしてしがみつくような動作をする。まさかとは思っていたが、性感帯まで猫に寄せられているというのか。 先程までぐずっていた彼女の反応が徐々に変化してゆく様を腕の中で感じていた。本能には抗えないのか、また掌を滑らせればまるで猫のようにも聞こえる媚びた声を漏らす。 決してそれを期待して背を撫でていたわけではない。偶然背を撫でる手がそのまま腰へ触れただけだ。今まで垂れていた尻尾が彼女の寝間着の下からぴんと上に向かって伸び、それからふらふらと揺れる。 腰に触れ撫でる度尻尾は満足そうに伸び、はしがみつきながら小さな声を漏らした。初めは多少抵抗する様子を見せていたものの、その心地よい感触に折れたのかごろごろと喉を鳴らす。 腰から尻尾に掛けて長く撫でると彼女は満足そうに熱く息を吐いた。 「…私、どこまで猫になってるんでしょうか」 「興味があるなら調べようか」 「それは、調べたい、の間違いでは無いですか」 「…さあ。どうだろうな」 二人で軽く笑い合い、引き合うように唇を重ねる。ざらりとした彼女の舌が絡んだ。畳の上へとを倒しながら、羽織を脱いで放る。部屋の隅で揺れる頼りない行灯の灯りが、彼女の上気した頬を僅かに照らした。 口づけを繰り返しながら、纏う布を互いにひとつひとつ剥いでゆく。顕になった彼女の肌に体毛はなく、いつもと変わらず白く瑞々しい。しかし尻尾には三毛猫のような柄のふわりとした体毛が覆っている。 様子を確かめるように浮竹は彼女を起こすと、その背を見せるように言う。恥じらうように顔を俯けたは、背を向け畳へ手と膝をつくと腰を僅かに突き出した。 丁度尾てい骨の辺りから伸びる尻尾には、根元からその体毛が生えている。まるで取ってつけたような様子だが、彼女の感情に合わせて揺れる様子に浮竹は思わず感心する。 腰のあたりを再び撫でるとはびくりとしならせた。腰から柔らかな尻尾にかけて何度か往復をさせるたびに背をぴんと伸ばし、心地よさそうに首をのけぞらせる。 「…隊長…遊ばないで下さい…」 「悪い、感心していたんだよ。尻尾の動きがまるで猫のようでな」 「猫のよう、じゃなくて猫なんだと思いますよ」 「ああ…まあそうなんだろうが…」 当たり前のようには言うが、そう簡単に慣れるものではない。ゆらゆらと揺れる尻尾と、ひょこひょこと動く耳を交互に見比べながら、まるで猫に欲情しているかのような気分に何とも言い難い背徳感が胸に広がる。 尻尾を避けるようにずらされた下着に手をかけると、は多少もぞもぞと腰を動かした。緊張したように荒い呼吸が聞こえる中、そのまま彼女の下着を下ろす。もう既にしっとりと潤うその場所が、灯りを鈍く反射した。 指先をその花弁へ這わせると、は猫が伸びをするように腰を高く上げる。敏感に反応する部分を擦るように指先で刺激を繰り返すほど、彼女は甘い声を上げ尻尾をゆらりと揺らす。 声を押さえるように唇を噛むのは、隣室や廊下へ配慮しての事だろう。時折部屋の前を足音が通り過ぎる度に二人は動きを止める。気配が去った後に再び浮竹は滑らせていた指で花弁を押し割り、そのまま静かに埋める。 「は、っぁ、…ん……った、隊長…」 「、あまり声を出すと聞こえるよ」 「わ…分かってます…が」 指の腹で彼女の中を軽く圧迫するように撫で付ける。大きく揺れた彼女の尻尾が頬にふわりと触れた。不覚にも、いつもの行為以上に胸が高鳴る事を自覚している。 それは恐らく彼女の戸惑いが伝わるからなのだろう。混乱をしながらも与えられる刺激で素直に反応する姿が心を乱す。ごろごろと喉の奥から鳴るような音と、時折その色声にさえ猫のような甘い鳴き声が微かに混じる。 指先だけで乱れ、声を抑え苦しそうに息を漏らすの背を眺めながら目眩がするほどの劣情を感じた。乱れた心拍を整えるように深く息を吐き出す。 心地よさそうに横に倒した彼女の耳は時折周りの音を集めるようにぴんと起き上がる。彼女が声を飲み込んだ後には確かに足音で廊下が軋み、部屋の前を通過した。どうやら聴覚は猫に近いようだ。 「音はどちらの耳から聞こえるんだ」 「っは…多分、上の耳だと…思います」 中々興味深い。顔の横の耳はどうやら完全に聴覚機能を失い、頭に生えた耳が恐らく猫に近い能力で機能をしているようだ。 なおも指先を彼女の身体へ埋めながら何度も弓のようにしなる身体を見下ろす。絶えず湧く蜜は指を伝い、畳の上へと糸を引き垂れた。が低く唸ると肉癖は指を押し戻すように膨張し、大きく二度ほど腰をびくびくと震わせる。 尻尾はぴんと天を向いていたが、彼女が力を抜いたのと同時にへたりと垂れた。荒く息を繰り返しながらも、物欲しそうにひくりとその濡れた花弁は震える。 は軽く振り返りながら、上目で浮竹を舐めるように見上げる。やけに煽情的な視線を浴びながら、袴の紐を解き下ろした。 「…て、くれませんか」 「…すまない、聞こえなかった」 「……入れ、てくれませんか」 何を、などと聞かなくても分かることを思わず尋ねれば、彼女は何も答えずただ腰を高く上げて笑む。 初めて目の当たりにした確信犯的な誘惑に少なからず狼狽えた。誘うように揺れる尻尾を軽く掴み持ち上げる。硬く熱を持った自身のそれは痛いほどに反り、彼女を求めた。 先端を宛てがい馴染ませるように軽く埋める。擦る度に粘性を持った水音が漏れ、は荒く息を繰り返す。彼女の細い腰を掴み、その狭い肉癖を割るように沈めこんだ。 熱に包まれる官能に喉の奥が詰まる。根元まで挿し込み、身体を倒した。胸元に手を伸ばし、膨らみを掌で包みその柔さを楽しむように形を崩す。ぷっくりと起ち上がった先端を指先で摘み転がすと、彼女の中は僅かにうねり締まる。 尻尾はゆらゆらと揺れ、時折浮竹の腰や腿へと軽く巻き付く。奥を時折小突く程度では満足ならないのか、は腰を前後に揺らし震える。彼女のぴんと立ち上がった耳を軽く唇で咥えると、身体を固くした。 「っん、あ……隊長…ま、まって」 「どうして」 「だれか、来ます」 通り過ぎるだけならば何度もあったというのに、はやけに警戒した様子で襖の方に視線をやる。浮竹もそれに釣られるように襖を見ていれば、確かに近づいた足音が部屋の前で止まった。 「さん、平気？」 襖の向こうから聞こえた声に、流石に浮竹も息を止めた。寮へ帰宅した清音がを心配して訪れたのだろう。下手に物音を立てる訳には行かず、そのままの状態で動きを止める。 心配したような清音の言葉に、焦った様子では一つ呼吸を整えるように大きく息をして答える。 「何か具合悪そうに聞こえるんだけど…」 「うん、平気だよ…へいき」 「ああ、そう…？夜ご飯少し多めに買ってきたんだけど…入って良い？」 「だ、だめ、今は！」 一瞬襖に手を掛けたような音に冷や汗が出る。襖を一枚隔てた先でまさか起こる出来事を予想できる筈が無いだろう。状況、関係全てが突拍子もなさすぎる。一目でも見られれば一巻の終わりだ。 恐らく緊張からかの耳はぴんと立ったまま襖の方向を向いている。中々清音も引かず、心配だからと繰り返す。その問答を聞きながら、何を思ったか浮竹は腰をゆるりと引いた。 きっと襖の外までには聞こえない程度の音が結合部から漏れる。今は到底理性的ではない。少しでもに妙な様子を感じれば、清音の性分からその襖を開き様子を確かめようとするだろう。 ん、と息を呑む声が小さく聞こえる。深く息を繰り返す彼女の身体へゆっくりと手のひらを滑らせる。再び身体へと埋めると、苦しそうには息を吐いた。声音に出ないよう抑えながら襖の外と会話を続けるは、時折浮竹を振り返ってはその潤んだ瞳で訴える。 尻尾を揺らしながら、彼女の身体は何度も収縮を繰り返す。鈍い快感に深く息を吐き、この異様な状況にも関わらず欲は増した。 「浮竹隊長も心配してたよ。あ、でも猫薬飲まされたって事は言わなかったから安心して」 「…っあ、ありがと…私、もう寝るから、大丈夫」 名前を挙げられ、一瞬意識が逸れる。猫の件に関しては、が言わないでくれと清音に伝えていたのだろう。だが、きっとどちらにしろ浮竹はこの部屋まで訪れていた。 必死で平静を装う彼女の身体を緩やかに貫きながら、ぐったりと身体の力を抜く彼女の腰を支える。 「もし夜中お腹空いてたらあたしの部屋来てよ、おにぎり冷やしておくから」 「…ありがと」 振り絞ったような声でが答え、ようやく会話が終わった。実際ものの三分にも満たないものだったが、相当長く感じたのは浮竹も同じだった。 身体を起こし遠ざかってゆく足音を聞きながら優しい子だと感想を漏らすと、は振り返り恨んだような視線を向け、ひどいと一言呟いた。 申し訳ないと思いながらも、彼女の腰を震わせ耐える様子に思わず煽られた。彼女の頭を撫で、再び身体を倒し深く繋がる。腰に手を滑らせ、悪かったとひとつ耳元で囁くと彼女は言葉無く首を横に振った。 猫の性感帯とされる尻尾の付け根のあたり、腰の下部を撫でると彼女はきゅっと中を柔く締める。繰り返し中を穿ちながら触れた肌から流れる彼女の体温が心地よい。 鈍く響く肌の重なる音へ、互いの息遣いが絡む。浮竹は動きを止め、ずるりと抜き出すと彼女の身体を仰向けへ転がした。頬を上気させ息を大きく繰り返す彼女を見下ろしながら、一つ笑う。 「…いつもより、興奮してませんか」 「そう見えるか」 口元を緩ませゆっくりと瞬きをした彼女の身体へ、再び沈める。隙間なく包まれ、柔く絞られるような感覚に低く声を漏らす。深く突き上げる度には恍惚した目線を絡ませた。 込み上げる吐精感を何度か飲み込みながら、彼女が一番良く反応するその場所を突く。身体をしならせながら白い首を仰け反らし震える彼女の柔らかな腿を愛おしく撫ぜると、その生白い足を腰に回し肌を滑らせた。 ぱたぱたと畳を軽く叩く尻尾は時折大きく揺れて腿に触れる。が声を抑えると相反するように激しく揺れる様子は余計に感情を乱す。動きを緩めればもっととせがむように腿へと柔らかく巻き付き誘った。 その刺激自体に直接的な快感は無いものの、どうしてかその艶のある動きに煽られる。 「…、尻尾がこそばゆい」 「す、すみません…あまり言うこと、きかなくて…」 頬を染めては恥じらい目を伏せる。感情と直結しているというのに、制御ができないというのは面白い。一体どのような技術を使って薬を開発したのか知らないが恐ろしいものだ。猫だからまだ良いものの、恐らく他の動物でも同じような薬を作る事も出来るのだろう。 「った、隊長…も、う…っ」 「……はっ…ああ、そうだな…」 「ぁ、っ…ん、ぅ…」 荒く息を繰り返しながら、彼女は薄っすらと涙を浮かべて求める。身体を倒し深く繋がると、背に回った彼女の腕に力が籠もり腰を浮かせた。 言語として聞き取れないような言葉をはうわ言のように呟く。ぎっちりと纏わり締め付ける熱に浮竹は表情を歪め、限界を迎えた感情を吐き出すように唇を重ねた。その細い身体の奥へ溜まった欲を流し込みながら、身体を震わせる。 前回の行為からそう時間は経っていない筈だったが、全てを吐き出し終えるまで随分と時間を要したように思えた。互いにじっとりと汗を浮かべながら、大きく息を繰り返す。 彼女の頭を撫でると、耳をぺったりと横に倒し心地よさそうに目を瞑った。 「この後もう帰られるんですか」 「特に予定はないが」 眠たげな目を向けるに答えながら、勢いを失った自身を彼女の体内から抜き出す。身体を起こしたは近くの棚へ手を伸ばし、ちり紙を取り出し浮竹へと渡した。 自身も零れる白濁を受け止めるようにちり紙を宛がう。溢れる瞬間、切なく歪む表情に思わず胸が揺れた。 「もう少しだけ居てくれませんか」 「勿論……だが…、尻尾が気のせいか…」 「…あ、あれっ、み、短くなってる…耳も！」 尻尾はいつの間にか恐らく初めに見た半分ほどの長さになり、ほっそりとしている。萎むという表現はあまり相応しくないようにも感じるが、恐らくそのまま萎んでゆくのだろう。 小さくなった耳に触れながら、は嬉しそうに笑った。一体何が切欠か、ただの時間経過だろうか。それにしてはやけに急激に変化が訪れたものだ。まさか先程までの行為が切欠となった可能性は、とそこまでは流石に考えすぎだろう。 彼女の傍で横になり、人の姿に戻りつつある姿を眺める。獣の耳や尻尾に戸惑う様子に図らずも興奮を覚えたものの、やはり本来の姿が最も愛おしい。浮竹の隣へ同じように横たわったは僅かに覗く耳をぴくりと動かした。 だが不思議なものだ、彼女であって彼女でない者と肌を重ねたかのような僅かな後ろめたさが広がる。一度限りの夢での出来事だと言うかのように、みるみるとの身体はすっかり人のものへと戻った。 頬に触れ撫でると、彼女の手が重なる。やはり体温というものは、何より心地よい。 *** 「」 「…砕蜂隊長、どうされたんですか…こんな所まで」 隊舎を出た所を突然呼びかけられ、は驚いて振り返る。どうしたんですか、と問いかけてもじっと押し黙ったままの砕蜂に、は頭を一つ下げて背を向けると怒鳴るように呼び止められた。 一体何の用なのか分からないが、要件があるならばさっさとして欲しいものだ。 「…その…先日のあれは済まなかった」 「先日の…猫の件ですか？」 「それ以外で貴様に頭を下げる事は未来永劫無い」 「す、すみません…」 謝るのか威圧するのかどちらかにして欲しい。彼女の言葉の強さに思わず謝った事を多少後悔しながら、再び頭を下げて背を向ける。と、また怒鳴るように呼び止められいよいようんざりとした気持ちで振り返った。 何ですか、と尋ねれば砕蜂は俯き口をもごもごとさせる。 「…何をして治した」 「……何を…というのはどういう事ですか」 彼女の言葉には僅かに血の気が引く。まるであの猫化薬に治療法があるかのような様子だ。そしては知らぬうちにその「何か」によって猫化を治療したかのような口ぶりに聞こえる。 「だ、だから、治る直前何をしていたかと聞いているのだ！」 「…何か治療法でもあったんですか？」 「…治療法というか…」 「あの薬は、何かをしないと猫化が解けないものなんですか？」 「そ、そういう訳ではない！時間経過で必ず戻る！…だが、早めに解く方法もあるというだけだ」 随分な代物だとは感心する。腕を組み、顔を仄かに赤くしたまま答えを待つ砕蜂を、はじっと見る。 「…時間経過ですよ」 「そ…そんな馬鹿な、何もしなければ少なくとも三日は続くように作らせた筈…」 「その日はお腹を壊してたので、そのせいで成分が早く体外に出たのかも知れません」 あの猫の状態が三日続くなんてあまりにも恐ろしい。平静を装いながら、は内心げっそりとする。恐らく彼女の言う通り何もしなければ三日は猫で居る事になったのだろう。 恐らく彼女の言う治療とは、間違いなくあの直前が浮竹と共にしていたあの事だろう。恐らくあの行為自体ではなく、性的興奮や恍惚状態といった刺激に紐付いている可能性が高い。 ただ猫になるだけでなかったとはまさか思わなかった。彼女の敬愛する四楓院夜一に何らかの所以があるのだろうが、あまり詳しい事は聞くと後悔をしそうなものだ。 謝罪という名目で、薬の結果を確かめに来たのだろう。ただ今は白を切り通す他ない。涼しい顔をして、不思議そうな表情を砕蜂へと返す。 「…まあ良い。兎に角、猫の件に関しては申し訳なかった」 「お気になさらないで下さい」 そうは答えたものの、口だけの謝罪だけでは多少気が収まらない。完全な猫となったらどうしようかと、あの時の不安は本人でないときっと分からないものだ。 不安を覚えながらも性欲には負けたが、しかし結果的にそれが猫化の解除と繋がったのだから怪我の功名とも言ったところだろう。 背を向けて去ってゆく砕蜂に、は駆け寄って肩を叩く。訝しげな表情をする彼女に、少し微笑みながら口を開いた。 「砕蜂隊長、助平ですね」 「す、すけ…！？ちっ、ちがう！私は、夜一様と…！」 再び顔を赤くしてわっと声を上げた彼女を背後に置いては走り去る。その夜一様と一体彼女は何をする目的であの薬を作らせたというのか。いつもの鋭い目つきが動揺で揺れる様子を思い出し、は口元を緩めた。 2020/08/24