歴戦の罪悪感

50音企画

歴戦の罪悪感

 

 布団の上でぐったりとしたまま大きく息を繰り返す彼女を見下ろすと、その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。他でもない自分の行為の結果だというのに、じわりと痛んだ罪悪感にその涙へ指を伸ばして頬へ染み込ませるように撫で付けた。
 千世は笑うと、すみません、と一つ小さく呟く。謝られるような事ではない、むしろ謝るべきは自分の方だろう。そのまま頬を包んでやると彼女は安心したようにふうと息を吐いた。
 常に優しくしてやりたいという意思はある。その薄い皮膚を破らないよう、その細い腰を壊してしまわぬように気遣い触れているつもりだというのに、まるで正気を失ったかのように自分の感情で手一杯になる事がある。勿論毎回という訳ではなく、時折それは訪れる。
 今日は特にそうだった、彼女が苦しげに声を漏らす事を頭では理解しながらも衝動を止めることが出来ず思いのままに揺さぶる事を続けていた。息をつく間も与えず、ただ欲を押し込むだけの行為で彼女を泣かせるのは勿論本意ではない。だが止める術を知らない。
 きっとこの時折の衝動は何かの感情に紐付いているのだろうとは思う。初めは何かしらへの嫉妬かとも思った。だがその時特に思い当たる節もなかった。今日もの眼下に広がるこの有様だが、一日特に嫉妬心を煽られたような記憶はない。
 ならばどうしてと何度も考えを巡らせるが、しかし答えを掴めることは無くもしや何の切欠も理由もない単なる定期的な衝動なのかと思い始めていた。

「痛みは」
「いえ、痛くは無いです。ただ、息が吸えず苦しくて」
「…悪かった、本当に」
「いつも謝らないで下さいよ」

 いつも、という言葉が図星で胸が痛い。そうして彼女がまだ潤む目を細めて笑う顔を見ると、胸が掴まれるように息が詰まる。しかし何度この罪悪感を経たとしても、その記憶をまるで失ったかのようにまた同じことを繰り返す。
 彼女を前にすると普段は奥底で息を潜めている感情がずるりと現れるのは何時もの事だ。歪む表情と漏れる甘い声は、病のように脳を蝕む。今日のようなそれは、普段感情を抑え込み、蝶よ花よと優しく触れる反動のようにも思えるがその実分からない。
 その得体の知れない感情は、この先も時折顔を出し続けるのだろう。そして、置き土産として残された罪悪感に鬱々とする事を飽きもせず、愚かな夜を繰り返す。