冬が来てから口説き直して

50音企画

冬が来てから口説き直して

 

「山茶花と椿の違いって何なんでしょう」
「確か…山茶花は時が経つと花びらが一つずつ落ちるが、椿は首から落ちるはずだよ」

 なるほど、と千世は頷く。近頃隊舎近くの道に花びらが落ちている事が千世は気になっていた。ふと見上げると、塀から張り出した枝葉に大人の拳ほどの大きさの花が見事に咲いており、そこからはらはらと落ちているようだった。
 その花の形はよく見覚えがあり、確か山茶花か椿だったと記憶している。二つの花はよく似ており、千世にはその差が分からずいつも通る度にどちらだろうかとぼんやり思っていた。偶然にも月例隊首会の帰りにその道を通ったからふと聞いてみたのだが、彼の言葉に納得をした。
 さらに聞けば山茶花の方が時期が早いようで、椿が見れるのはもう少し冬が深まった頃のようだ。確かにこの時期に見るのは花びらが落ちる姿ばかりで、寒さの厳しくなるころから首からもげたように落ちる花を見ていたような気もする。

「じわじわ嬲り殺される山茶花と、一思いに首を落とされる椿という事ですね」
「…何だその色気のない覚え方は」
「覚え方に色気も何もありますか?」

 千世が眉を曲げて言えば、そうだなと浮竹は笑った。暫く二人で山茶花を見上げながら立ち止まっていたが、千世は地面に落ちた花びらを腰を屈め拾い上げる。厚みのあるその花びらはひやりと冷たい。
 白にうっすらと薄桃色が上品に混ざるその花びらは、このまま本の間に挟み押し花にしたらきっと綺麗なことだろう。

「山茶花の散り際を見ると、冬の気配を感じるよ」
「山茶花と入れ替わりに椿が咲くんですもんね」

 一つ頷いて歩き出した浮竹の横に、小走りで近づく。
 山茶花と椿の違いをはっきりと知ったのは今浮竹から聞いたからであって、このまま何となく過ごしていれば特にその差など知らず過ごしていたのだろう。また一つ季節の楽しみを知ったような気がして、千世は胸が躍るような気分だった。
 彼と過ごすようになってからというものの、毎日のように新たな発見を得るようだ。きっと一人で居れば興味の無かったような事も、彼が居れば尋ねてみようかと思う。彼が知る事ならばそれを自分の中へと流し込み、彼も知らないことならば知識を得て伝えたいと思う。
 いつもはただ凍えるような冬も、今年は少し違った景色のように感じるのだろう。しびれるような木枯らしが吹く中、千世はその隣でふっと頬を緩ませた。