けだものめ!
ぐったりと布団の上へ転がったまま、千世はまだ荒く息を繰り返す。肌が離れて少し経つが、乱れた呼吸は中々残らず身体も重い。いつもは一度、多くとも二度すれば互いに満足して終わるものだが今日はどういう訳か四度続いた。
一向に勢いの衰えないその様子に、途中息の仕方を忘れてしまうのではないかと思ったほどだ。腰がぐったりと重く、酸欠か頭も痛い。ようやく落ち着き始め体温の下がってきた身体を暖めるため、足元で丸まっていた布団をずるずると引き上げ身体に掛ける。
重い体を横に転がし、やけにさっぱりとした表情で横になっている浮竹を恨みがましそうに見た。
「悪かったよ」
「本当に悪いと思ってますか」
千世の言葉に、浮竹は軽く笑う。少し時間も経ち大分引いたが、この季節だというのに先程までは額へ伝うほど汗を互いにかいていた。今は随分涼し気な顔をしているが、まだ髪に多少乱れが残っている。
「何か変なものでも食べたりしました?」
冗談交じりに千世が言う。しばらくぶりという訳でも無かったし、特に燃え上がるような何かがあった訳でもない。何の変哲もない夜だったというのに、ああも必死に何度も求められるというのは少しばかり疑問ではあった。
だが、そんな日もあるのだろう。あくまでそれは軽い冗談で、否定されるとばかり思っていた。だというのに、少し気まずそうに目線を外した浮竹を見て千世はぎょっとする。
「いや、実は今日…京楽に怪しげな丸薬を貰ってな」
「…飲んだんですか?」
「…まあ…疲労回復に良いと言うから…」
「絶対それ変な薬ですよ!なんで飲んだんですか…」
疲労回復に良いと言うから、とまた浮竹は小さく繰り返す。そんな得体のしれない丸薬をまさか疲労回復の効果を鵜呑みにして飲むとは全く危機感がない。相手が京楽だから信じたのだとは思うが、しかしそれにしても。
終わったことをとやかく言うつもりはないが、何とも遣瀬のない気分だ。謎の丸薬一つの効果でこうも乱されるとは。つい先程までの行為を不意に思い出し、千世は染まる頬を隠すように布団を鼻までずり上げ目を閉じた。
しかし間もなく、がさと布の擦れる音が耳に入り千世は目を開け彼を見る。隣の布団で上半身を起こした浮竹は、千世へと身体を向けじっと動きを止めていた。
「どうされたんですか」
「…ああ、いや…何というかだな」
その気まずそうな答えに、嫌な予感がする。何か自分の要求を通したい時、そうして控えめな様子で始まり、かといって首を横に振ることを許さない。また布の擦れる音がして、徐々に彼の影が近付く。
「…俺の都合だが」
もう暫く付き合ってくれないかと、そう彼は低く呟く。折角呼吸が整い始めたというのに、また振り出しに戻されるというのか。その訳のわからない丸薬の効果が憎い。
まともな思考で最後に見えたのは、欲に塗れ熱を帯びた視線だった。